「それで、今村沙織さんは今日は何処に」

 僕は彼女の居場所を訊こうとした。

 すると

 「沙織、今日は来てないわよ」

 そっかぁ、彼女今日は講義なかったんだ。そう勝手に思い込んだ。

 「沙織、今日朝から具合悪くて休んだのよ。おかげで今日は私2回も代返よ。ばれるかと思ってひやひやしたけどね」

 その顔は、ちょっとはにかんだお茶目と言った感じだった。

 「そうそう私、美津那 那月(みつな なつき)みんなナッキて呼んでるわ。沙織の親友、さっきはごめんなさい」

 彼女は、スポーツマンの様にきりっとした態度で軽く頭を下げた。

 そして腕時計を見て

 「あっいけない、もうじき次の講義が始まっちゃう」

 そう言って校舎の方へ駆け足で向かった。途中、足を止めて振り返り大声で


 「亜咲君て言ったけ、もしかしたらあんたと沙織意外とお似合いかもね」


 屈託のない子供のような笑顔で校舎に消えた。

 一人中庭に残った僕は、彼女の言った「お似合いかもね」が頭の中でコダマしていた。顔が赤くなるのを感じながら。


 そのあとの受けた講義は、意外と早く終わっ様に感じた。と、言うよりも「お似合い」と言う言葉をずっと頭の中で双幅させながら、「ふう」とため息をついたり、時には顔を赤らめたり、我ながらその想像力はたくましいものだと感じた。


 さぞかし、僕の近くで講義を受けていた奴は、僕の事を何処かおかしい奴だと感じていたに違いない。

 それはそれで、僕にとっては知ったこっちゃない。

 サークルの定例ミーティング。ドアを開けるとミーティングはすでに始まっていた。

 僕は今回の議長である部長に軽く会釈をして席に着いた。

 部長が議長を務める今回の議題は、学園祭で出版する文芸誌についてだった。