ナッキは泣いていた。自分が自分の込みあげてくる想いを抑えきれないように。

 そして


 「沙織は……大丈夫だけど……わ、私がだ、大丈夫じゃ……ない」


 そう言っていきなり僕に抱き着いてきた。

 「私が大丈夫じゃない」そう言って抱き着いた。

 「私ずっと亜咲君の事気にしていたでも沙織の彼氏で、それで沙織があなたの記憶を失くして、もう沙織とはなんでもなくなって、だ、だから……私、今なら本当の気持い、言える」

 ナッキは僕を泣きながら体を震わせ強く抱きしめて、自分の溜めていた想いを吐き出すようにぶつけた。

 「私、亜咲君のことが好き」

 「ナッキ……」

 ナッキはすがるようにキスをしてきた。僕に、僕の唇に。

 そして「抱いて、私を抱いて。沙織の様に。沙織を忘れるくらい。私を抱いて……私があなたの中から沙織を消してあげるから……」

 そのまま二人はフローリングの床に倒れ込み、お互いをむさぼった。

 二人とも溜めていたものを吐き出すように、苦しみや悲しみを二人で吐きだす様に、抱き合った。

 吐き出すものが無くなろうとした時、全てが一気に放たれた。彼女もそれに合わせるように、自分の中にあるすべてを体の中から吐き出した。

 その日、僕はナッキと一夜を共にした。

 次の日、ナッキのところを出るとき

 「ありがとう、亜咲君。多分あなたが沙織に会わないのと一緒に私もあなたとはもう会うこともないと思う。でも、もしあなたの言う奇跡が起きたとき。また私はあなたと沙織と三人で時を過ごしたい。それがどんなかたちでも……」

 ナッキとキスをした。

 最後にナッキは

 「沙織の事は心配しないで、私がいつまでも見守っているから。し、心配し……ないで……」

 「うん、ありがとう。それじゃ」

 その時ナッキ事、 美津那那月はもう一度僕に抱き着きキスをした。力いっぱい抱きしめ、僕にキスをした。
 その日は寒く、しんんしんと都会の空からは雪が舞っていた。



 僕は、有田優子の元へ向かった。



 作家になる為に、自分の物語を描くために。



 そして数多くの道しるべを残すために。書いて書いて書きまくる。沙織がその道しるべを見つけ出せる様に、一つでも多く



 僕の存在を見つけられるように。


 僕はそのキャンバスを張り替えた。また新たに