目が覚めると、外は夜に降り積もった雪に、日の光が反射していた。

 輝くその光は新しい日が今生まれたことを物語っていた。

 離していた手を繋ぎなおし、そっと沙織の顔を覗き込む。

 ゆっくりと沙織の瞼が緩み開いていく。

 その顔を見て

 「おはよう」といつもの様に。毎日交わしている様に。変わりなく言った。

 ぼやける眼に、次第に僕の顔が映りだす。

 その人影をその人を次第にはっきり見る。僕の「おはよう」と言う言葉を訊きながら。

 そして

 「おはようございます」と返す。

 沙織

 沙織。

 「はい」そして「何か御用ですか」

 沙織

 次の言葉は



 「あなたは誰ですか」…………「私は沙織ですけど」……




 ………… 沙織の記憶は僕の事だけを、消してしまった。

 僕と過ごしたおよそ180日間の記憶を……

 キャンバスに描かれた二人の思い出は、歪み静かに消えていった。

 そして、そのキャンバスは何も描かれない。


 白いキャンバスになった。