授賞式の時の挨拶。もう勘弁してくれ。

 僕がたいそうな事言える訳がない。あっけにとらわれるように簡単に済ませた。だから苦手だと言っているのに。

 パーティも中盤となったころ。

 僕のスマホが鳴った……

 沙織の家から。

 沙織が倒れたと……そして病院に運ばれたと……



 …………………………


 外は、雨が振っていた。


 駅まで走るビルの大型スクリーンには天気予報が……



 活発化した前線がこの雨を強く降らせるでしょう。そして、明日の日中から今年一番の寒気が舞い込みます。この雨は次第に雪に変わり大雪が予想されます。明日の交通機関……


 
 僕は走った。新しい背広が汚れる事なんか気にもしていられない。僕はとにかく走った。

 病院に着くと、お父さんが、お母さんがそして佑太が……

 佑太が悲痛な表情で僕を見る。そして僕に抱き着き

 「姉貴、もうすぐだって、姉貴もうすぐ一番大切な記憶を失くすって……どうしたらいい。達哉さん、俺、俺……」

 抱き着きながら泣いた。

 お父さんは僕に事情を説明してくれた。

 「達哉君。今すぐと言う訳ではないが。後、そんなに時間が無いことは確かだそうだ。でもそれが1時間後なのか2日後なのかそれは解らない」

 「沙織は、沙織は」僕は沙織の姿を訊いた。

 「沙織は今検査中だ。多分麻酔で寝ていると思う」

 それからすぐに検査室からストレッチャーに乗せられた沙織が出てきた。

 「さおり、沙織、沙織……」

 沙織は腕に点滴をされ、運ばれるストレッチャーの上で寝ていた。麻酔によって。

 再びだろう。医師が説明するだけど、そんなの耳に入る訳がない。

 何言ってんだ、コイツ。そんな事ないだろ。馬鹿だろう……馬鹿。馬鹿……沙織が僕に馬鹿だと言った。

 そう沙織は僕の事を馬鹿だと。そして僕は、自分から大馬鹿だと自分から大馬鹿だと……

 そうだ、僕は大馬鹿だったんだ。

 こうなる事は解っていた事なんだ。それを承知で僕は大馬鹿になったんだった。

 医師の言った通り、沙織はそれから1時間くらいして麻酔が切れ目を覚ました。

 沙織の両親は、目を覚ました沙織に

 「沙織、解る、わかる、解る」と繰り返し聞いた。

 「どうしたの。そんな顔して、お父さん、お母さん」

 その言葉を二人は訊いてホット肩を落とした。