闇夜が訪れ、野辺(のべ)が眠りについたころ、 月のわずかな光を頼りにして、 蝶は再び戻ってきた。 花にとまって、そっと花弁を開く。 口無しが驚いていると、 「忘れられなくて」 蝶は静かに微笑んだ。 「もう、ここを発つんだ。 その前に、君にどうしても会いたかった。 来年は、もう会えないから。」 蝶は、そう言うと、ゆっくりと蜜を吸った。 口無しは、蝶を柔らかく包みこむ。