至極の時が終わると、蝶は、ありがとうといい、ヒラリと羽を動かして離れた。 いかないで。 お願い、いかないで。 この想いを秘めなければならない。 見送るときに、引き止めてはならない。 けれど、けれど。 あぁ、彼はもう二度と来ないだろう。 ここには、既に夏の気配がないのだから。 蝶の姿が見えなくなると、 花はふるる、と身を震わせ、小さな雫を一つ生み出した。 その花には名があった。 口無(くちな)しという、名があった。