「雪村はいい奴だし、この先もずっと友達だよ。 でも、やっぱりしんどいなぁって思うわけよ」

「……うん」

「馬鹿だよなぁ、俺。 会ったことのない奴に勝手に恋して、想いを伝えないままフラれて、モヤモヤして、しんどくなって……ほんっと馬鹿みたいだ。 ……俺、実は前にもユキって女に恋してたんだよ」


「……え?」

「あ、それもチャットでの話なんだけどね」



フジヤマはタバコを灰皿に押し付けながら、最後の煙を吐き出した。

昔を思い出しているのか、その顔は優しく笑っている。



「……俺がまだリアル高校生の時の話だから、もうずいぶん前になるな。 あのチャットサイトは当時からあってさ、今よりもかなり賑わってたよ」



赤信号で止まった時、フジヤマは空中に文字を書き始めた。



「俺が好きになったのは、カタカナで書く『ユキ』」



ユキ。

フジヤマは、その人に恋をしてたんだ……。



「高2の時、俺たちは『高校生ルーム8』で毎日毎日話してたんだ。 夏休みの間中、朝から晩までずっとな」

「……今の私たちみたいだね」

「うん、だから『懐かしいなぁ』っていつも思ってたよ」


「……ユキさんには、想いを伝えなかったの?」

「伝えてない。 伝えても叶わないってわかってたからね。 だから俺は『チャットで笑い合ってるだけでいい』って思ってた。 いつまでもずっと、二人でチャット出来たら最高だって思ってた」



……でも、『ずっと』には ならなかったんだ……。