ーside近藤ー

「すみません。」

私はその姿を見て驚いた。

何しにきたの?

看護師一同は一瞬時が止まったかのように、全員の動きが止まった。

私は遥香ちゃんの担当看護師として冷静になり母親の元へと行った。

それにしても、本当にこの人は遥香ちゃんの母親?

容姿も表情も随分と変わった。

2年前のような奇抜な格好をしている母親の姿もなくきつい言葉を話すこともなかった。
言葉が丁寧で格好も年相応の格好になった。

何のつもりか知らないけど、また遥香ちゃんを惑わせに来たのかな。

そんなことを考えていると、母親は深いお辞儀をした。

初めて見るこの人のお辞儀。

これがこの人の誠意?

私は、とりあえず話を聞こうとナースステーションの隣にある談話室へと向かった。

「急に来てすみません。」

「いえ。」

私は、母親にお茶を出す。

いつもは、お茶だと文句を言われる事は知っている。

だけど、あえてお茶を出して母親の反応を伺った。

「ありがとうございます。」

意外だ。
お茶を出しても1度もありがとうなんて言われたことは無い。

本当にこの人は変わったのかもしれかい。

だから、私は気になって話を聞いてみた。

「今日は、遥香ちゃんのお見舞いに来たんですか?」

「はい…。」

そう言ってうつむいた。

「でも、どうして遥香ちゃんがここにいること知ってるんですか?」

私は肝心なことを忘れていた。
どこから遥香ちゃんが入院しているという情報が漏れたのだろうか。

「あ、私の母親からです。実は母親はここの産婦人科に勤務しているんです。それでたまたまあの子が運ばれたことを知ったそうで私の所に連絡がありました。」

そうだった…。
この人の母親は産婦人科で勤務していた。
だから、急患で運ばれた遥香ちゃんをたまたま見かけたのか。

「遥香ちゃんは、段々と熱が下がりました。まだ、予断は許されませんけど。肺炎にもなりかねないのでまだ様子を見ています。」

私はとりあえず、遥香ちゃんの今の体調の状態を伝えた。

「そうですか…。遥香のこと治してあげてください。よろしくお願いします。」

そう言うと再び深く頭を下げた。

私はこの人の変わりようにヤキモキして、気になって仕方がなかったことを口に出してしまった。

「あの!何のつもりですか?今更遥香ちゃんの様子をどうしてそんなに気にするんですか?もしかしてまた傷つける気ですか?」

私は気づいたら冷静でいられなくなっていた。
感情的になっていた。

「実は、私あの日遥香に言われて気づいたんです。私があんなにひどいことをしたのに、あれだけぶつかってきてくれたことが、すごく嬉しかった。自分でも驚くくらい。あれほど、憎んでいたあの子に初めて抱いた感情でした。心のどこかで、遥香のことを気に止めていたのかもしれませんね。でも、私がやったことは罪に問われるべきことです。本当は警察に連行されてもおかしくないと思います。だから、私あの子に謝りたいんです。謝って許されるなんて思ってません。それほど、遥香に身体だけじゃなくて心に消えない傷を深くつけてしまったんですから。許してもらえなくてもいい。それでも、私はあの子に1度でいいから母親らしいことをしたいんです。」

私は驚いた。

この人は、子供ができてから変わったんだ。

本当に反省していることは私でも分かる。

だからこそ、尊先生には言うべきか迷った。

前みたいな態度なら絶対に会わせたくないし会わせてはいけない。

だけど、この人の気持ちを完全無視することも私はいけないと思った。

最終判断は佐々木先生に決めてもらおう。

私は佐々木先生にこの人の話したことを伝えた。
中々返答は帰って来なくて無言の時間がとても長かった。

佐々木先生が、とても深く考え込んでいることが電話の向こう側で伝わった。

それからしばらくして返ってきた言葉は

「会わせてもいいけど条件がある。それを約束させて欲しい」

とのことだった。

それは、遥香ちゃんはまだ予断ができる状態ではないから身体や心に負担をかけることはしないということ。

それと、遥香ちゃんが会いたくないっていうなら無理に会わせないこと。

その言葉をそのまま母親にも伝えた。

「約束は守ります。」

あとは、遥香ちゃんが答えを出せばいい。

私は遥香ちゃんを支えよう。

佐々木先生も、なるべく何かあった時にはすぐにこっちに来れるようにすると言ってたから大丈夫だよね。

私は、母親を遥香ちゃんの病室の前へ連れていった。