「どうも、夏村紘那です」


私は引きつる顔で愛想笑いをする。


「てか、これ彼女?
事務所恋愛禁止だろ?大丈夫かよ」


白塗りにされた男の顔は心配そうに澪くんを見つめた。



「彼女じゃないよ。俺のファン兼ゲーム友達!」


澪くんは私の肩を抱く。
距離がグッと近づいて、肩が触れ合う。
緊張のあまり体が硬直して動かなくなる。



「……まだね」



私にしか聞こえない声で囁かれた言葉。

「まだね」ってどういうことだろう。


体温が急上昇し、顔が火照っていくのを感じる。
薄暗くてよかった。
真っ赤なのバレなくて済むからね。


遠くから女の人の悲鳴が聞こえる。


「俺、そろそろ仕事戻るわ。みっくん達も早く先行きな」


お化けに促されて私たちはまた歩き始める。


「おうよ!売れない芸人頑張れ!」


澪くんから望と呼ばれた男は力強く頷き、待機場所へと戻っていった。


芸人志望なんだ。


夢のために一生懸命に頑張るお化けなら、怖くないかも。


私は澪君に手を引かれて暗い室内を回った。