遠くで夕焼け小焼けのメロディが聞こえてくる。
私はベッドに突っ伏していた上半身を起こすと、時計を見た。
嘘、5時!?
バスの出発時間は6時。
急がないと…!
「…おーい、澪君っ!起きてー!5時だよ!」
小声で澪君の耳元に囁きながら、そっと体を揺する。
寝起きはいい方らしく、澪君は「んん」と言いながら、すぐに目を覚ました。
とろんと眠そうな目で私を見つめると、ふにゃっと笑った澪君は、そのまま私を抱きしめる。
「なんか、大好きな人に起こされるのって幸せだね。…家族みたい」
照れもせずそんなことをさらっと言えちゃうんだから、澪君って恐ろしい。
私は未だに慣れないハグと、寝癖でぴょんぴょん跳ねた髪でくすぐったいのと、何より澪君の甘い言葉にとろけそうなのとで精一杯。自然と拍動も早くなっていく。
澪君は、大きくて綺麗な手で、私の頬を撫でると、そっとそのまま額にキスを落とした。
恥ずかしくて顔を隠す私の手をそっと退けて、もう一度。
もうドキドキが止まんないよ。
澪君は私の髪をくしゃりと撫でると、ゆっくりと立ち上がった。
彼は時計を見ると、「やっべ」と言って、肩を上下に揺らして笑った。
とっくに整っていた荷物を背負い、澪君もいつもの鞄を手に持った。
「怪盗東雲ってどう?」
既に暗くなり始めた窓を見つめながら澪君は言った。
どうやら「怪盗東雲」の響きが気に入ったらしい。
「子供っぽい24歳」
私がそう笑うと、澪君は口をぷくーっと膨らませながら、「いいもん、俺、永遠の17歳だもんね」と言いながら私の手を引いた。
「17歳も結構な大人だけど」
私がツッコミを入れると、澪君は顔を真っ赤にして、「別にいいもんねっ」と私の手をさらに強く握った。