「いや、そんな大したものじゃないですよ」


なーちゃんはまだ驚きに囚われたままで、顔を引きつらせながら、なんとか返事をしているといった様子だった。


「紘那ぁ、彼氏連れて来るときはちゃんと言っといてよ〜。テレビでしか見ない人が生身でいると、やっぱりびびるわ」


「私も聞いてなかったんだもん」


私は、なーちゃんに肩を掴まれて揺すられながら、口を尖らせる。


「俺が勝手に来たんです、すみません。急に」


澪君は布団の蓑をはがすと、布団の上で正座をしてぺこりとお辞儀をした。
さっきのお辞儀よりもすごく丁寧だ。


「あ、そんな、気にしないでください」


なーちゃんはへらへら笑いながら、「じゃ、お邪魔しました」と、早々に私の部屋から引き上げていった。
この後、私の携帯に一通のメッセージが届いていた。


『明日楽しんでね!ガイドブック見えた(笑)』


さすがなーちゃん。
よく気づくなぁ。


『ありがとう』


シンプルな一言と猫のスタンプを送ると、私は澪君を振り返った。