「怪盗東雲は紘那をさらう準備は万端だからね」
茶髪の癖っ毛をふわふわさせて揺れる澪君に、とろけそうになりながら、私は何を持っていくか頭をひねる。
「パジャマとかはいらないよ。この前みたいに貸すからさ。だから、着替えとかだけでいいよ!」
「荷物多いと大変でしょ?」と私を気遣ってくれる優しすぎる澪君。
私は澪君のお言葉に甘えることにした。
澪君のおかげで、旅の荷物はリュック一個でまとまった。
入れたのは、明日の着替えと、財布と、必要な小物をぼちぼち。
小学校の遠足や、中学校の修学旅行の前日の夜に似た、浮ついた気持ちが私を支配していく。
だって、ずっと憧れてた澪君とのクリスマスデートだもん。
布団の中で思いを巡らせたあのクリスマスデート。
いつも心の中にばかり描いていたことが、現実になるんだ。
明日は髪型もメイクもいつもより気合を入れて、いつもより可愛くならなきゃね。
自然と笑みが溢れてくる。
なんて幸せなんだろう。
『ただいまーっ』
いつもの元気ななーちゃんの声が、軋んだドアの音と一緒に聞こえた。
とんっとんっとんっと、軽快なリズムを刻みながら、私たちの部屋に近づいてくる。
なーちゃんの部屋の扉が開く音と、なにか重たそうな荷物を置く音が聞こえると、その次の瞬間、私の部屋の扉が開いた。