「お昼ご飯食べたら準備しよっか。今日はこれで帰って東雲宅でゆっくりしてから、明日朝早くに出かけよう」
次に私の前に差し出したのは、細長い長方形のチケット。
受け取って見ると、バスのチケットだった。
「バスだと電車よりなにかとリスク低いんだ。寝れるし、乗り換えもないから楽ちんだよ」
にこにこと楽しそうに笑う彼は、次々と大きめの黒いリュックから物を取り出していく。
よいしょとリュックから引きずり出したのは、遊園地のガイドブック。
真新しいそれを私に両手で手渡す。
顔にくしゃっと笑顔の花を咲かせた澪君は、なんだか嬉しそうだった。
「どれ乗りたい?」
澪君は、アトラクションのページを開いて、楽しみを待ちきれない子供のように指を写真の上に滑らせる。
このとき、私はちらりと見えてしまったんだ。
もう一冊、リュックにガイドブックが入っているのを。
少ししか見えなかったけど、たくさん付箋が貼ってあるのがわかる。
澪君、ここのところすごく忙しかったのに、私のために色々調べてくれてたんだ…。
じわじわと胸に温かいものが広がっていく。
澪君の優しさは、私の心によく染みる。
なにより、調べたのがバレないように、わざわざ新しいガイドブックを買うあたりが、本当に可愛くて、可笑しかった。
それが私にバレてしまう…という詰めの甘さもまた、彼の魅力なのだ。
このことは、知らなかったことにしておこう。