「…俺だって、好きな人の誕生日くらい祝いたいですよ」
澪君は耳元でそう囁くと、ぐりぐりとおでこを肩に押し付けた。
まるで甘えん坊の子猫みたいに。
そうか、寂しかったのは私だけじゃなかったんだ。
寂しいのも、会いたいのも、ちょっぴり不安だったのも、きっと、お互い様なんだ。
澪君は、そうやって、いつも大切なことを教えてくれる。
大好きが私から溢れていく。
私は、こぼれないように、そっと澪君を抱きしめた。
「だから、今日、紘那のこと連れて帰るから」
顔を肩に埋めたまま、今度ははっきりと聞こえた言葉。
「え?」
私は目をパチクリ。
連れて帰るって…?
「今日は紘那をさらいにきたの」
目の前に差し出されたのは四角い紙。
手のひらにすっぽり隠れてしまうくらいの、小さなもの。
私はおずおずと受け取る。
それは、国内最大級といわれる遊園地の入場券だった。
驚きのあまり黙り込む私に、澪君は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「超お忍び遊園地デート パート2だよ!」
だよ!じゃない!!!
嬉しい。ほんと、なんでこんなに私を喜ばせてくれるんだろう。
でもさ…
「お忍び過ぎるよ…!」
うっすら目に浮かんだ涙を目の奥に押し戻しながら、私は笑った。
私は知ってるのだ。
クリスマスにそこがどんなに混むか。
人がたくさん来るか。
騒ぎになって大混乱…なんてことも十分考えられるし、誰かに写真を撮られたらさらにまずい。
今までShootingファンくらいにしか知られていなかった澪君はもう、ドラマのおかげで知名度が全国に広がってしまったのだ。
「知ってるって。大丈夫だもん。俺に任せて!」
それなのに澪君はこの笑顔。
ずるいよ…。
だって、澪君に「大丈夫」って言われると、本当にそんな気がしてきちゃうから。
私は澪君の「大丈夫」にまんまと乗せられて、気づくと頷いていた。