「実はね」


澪君は、窓の向こうを眺めながらそう続けた。


「ドラマでもバラエティでも、本気で挑めるようになったのは紘那のおかげなんだ。
俺はずっと、目先の数字ばかり気にしていた。
でもそうじゃなかったんだ。
紘那のおかげで、たった1人でも俺の大ファンがいればいいじゃないかって、そう思えたの。
こんな俺のことを見てくれてる人もいるんだぞって、自信がついたから」


ニコニコ笑顔の澪君。
あの笑顔の奥でいろいろなことを考えていたんだね。
苦しい時期を過ごしてきた澪君。
やっと咲いた花なんだ。
私も卑屈にならずに、いじけずに応援してあげなくちゃ。
だってこんなにも、澪君は私のことを好きでいてくれるんだから。
それ以上、幸せなことはないんだから。


「あ、もう1つ、聞いてもいい?」


そう。私にはもう1つだけ、気になることがある。


「ん?」


窓から私に、澪君の視線が移る。


「なんで今日…?」


澪君は意地悪そうな顔をして首をかしげる。


「さぁーねぇ?いやー、何のことだか」


それから座ったまま私にぐいっと近寄ると、私の肩に顔を埋めた。
澪君の家のシャンプーのいい香りが鼻腔をくすぐった。