「七瀬」

 突然名前を呼ばれ、七瀬は訳も分からないまま振り向いた。

 いつの間に現れたのか、目の前には制服姿の栞がいた。自分たちがいるのは学校の教室で、放課後なのか七瀬と栞の二人だけしかいない。校庭に視線を向けてみても、やはり人影はない。この時、学校にしては静かすぎるということに、七瀬は気付くことができないでいた。

「あなた、一体いつになったら反省するの? 何もかもダメにしてくれたじゃない?」

 栞はそう言って、黒い裂け目のような笑みを浮かべた。

「滝上会長が死んじゃうの。呪いのせいで。あなたが代わりに呪われれば良かったのよ。あなたが死んだってどうってことなかったのに」

「ごめんなさい」

 辛うじて答えるのがやっとだった。

「優君だって本当に可哀想。あんなにあなたのために働いたのに、オカルト研究会が潰されるなんて。あなたが賭けなんて言い出さなければ、こんなことにならなかったっていうのに」

 七瀬は俯いたまま、嗚咽をもらしていた。いくら拭ってみたところで、涙はとめどもなく溢れてくる。

「滝上会長をあんな目にあわせて、優君まで巻き込んで。なのにあなただけは無罪放免?笑わせないで欲しいわね。あなた、ホント一体何様のつもり?」

「お願い……もう許して」

「まさかあなた、私にだけ許されればいいなんて思ってるんじゃないわよねえ?」

 栞は、ぴし、と伸ばした指先で七瀬の背後を指差した。

 七瀬が振り向いてみると、つい先ほどまでは誰もいなかったはずの廊下に生徒たちがずらりと並び、無表情なまなざしで七瀬をじっと見つめていた。

 恐怖を感じて彼らに背を向けると、おびただしい数の生徒たちが校庭を埋め尽くし、やはり無表情のまま七瀬を見つめていた。

 ほんのわずかなあいだに、生徒は続々と増え続けていた。いくつもの足音に振り向くと、彼らは部屋を埋め尽くすほどの勢いで教室へ入り込み、無言のまま一歩、また一歩と近づいてくる。七瀬は、助けを呼ぶことすらできず震えていた。

「もうやめて……来ないで」

 壁際まで追い詰められた七瀬は、両手で顔を覆い、力なくうずくまっていた。