優馬が神社での一件から淵で会った若葉の幽霊に会ったことまでをかいつまんで話すあいだ、生徒会長は目を閉じ時折うなずく以外は口を挟むこともなく黙々と聞いていた。
「つまり俺の痣が見えるのも龍神から得た力とやらが理由か」
優馬が話し終えたところで生徒会長はようやく口を開いた。
「恐らくは、ですが。ところで会長は若葉については」
「当然知っている。確かに若葉の死後立て続けに起きた水害と干ばつでかなりの犠牲が出たと記録されている。これも村人たちに龍神が失望した結果、ということか」
「その通りです。龍神によるコントロールを失った自然の猛威に、村人たちは激しく動揺したのではないでしょうか。滝上一族も後になってからことの重大さに気づいたことでしょう。巫女を失うことで龍神の加護をも失ったわけですから。ですがこのままでは村人から疑いの目を向けられてしまいます。そこで、一計を案じた滝上一族は神社を大規模に改修し、形式的に龍神を祀ったのです。これが現在まで至る神社の姿です。ただ、神社の改修を正当化するだけの理由が必要でした。その理由こそが」
「龍神伝説だった。そういうことだな?」
「はい。これが僕たちの考えた『本当の』龍神伝説です」
「それは若葉から読みとったとかいう記憶から言える話か」
「確かにその通りですが、理由は他にもあります。町の歴史について改めて調べてみたところ、この町の怪異のうち殆どすべてが若葉の事件以降に生まれたものだと分かりました。大規模な災害も若葉の事件以降急増しています。これは若葉の話を裏付ける結果ではないかと思います」
「なるほどな」
生徒会長は思わしげに顎を撫でた。
「では龍神は確かにいると言うんだな? だが今は洞窟の奥へ帰ってしまったためにこの町に龍神はいないと言うのだな?」
話のとっかかりを探すように生徒会長は部屋の天井へ視線を巡らせた。優馬はその表情に一抹の不安を覚えたものの、十分に考えるほどの余裕はなかった。
「信じるかどうかは任せる。が、誰が何と言おうと、これから俺が話すのは全て正明伯父が遺した研究ノートから得たものだ」
生徒会長は反応を待つまでもなく語り始めた。
「伯父はオカルト研究会を立ち上げた張本人なわけだが、高校を卒業した後も個人的に研究を続けていたようだ」
「オカ研をお父さんが?」
「なんだ、知らなかったのか。オカルト研を作ったのは正明伯父だ」
七瀬が驚きの声を上げるも、生徒会長は大した感興もなく話を続けた。
「結果として、オカルト現象と龍神、若葉の一連の事件との関連に気づいたらしい。この町は別名『オカルト現象の町』などと呼ばれているが、実に的確に言い当てている。お前もオカルト研なぞにいるからには、この町が如何に奇怪な事件を多く抱えるかくらいは見聞きしているだろう」
優馬は深くうなずいた。町で起こる数々の怪奇現象の真相を追及、究明することこそオカルト研究会の存在理由そのものなのだから。
だが、生徒会長は口の端を歪ませ自嘲するようにくっくと笑った。
「お前たちの推測は正しい。オカルト現象の元凶を作ったのは滝上一族だ。奴らが若葉を死なせ、龍神を追い返したのだ。龍神の怒りや恨み憎しみは呪いとなって今もなお消えることなくこの町を覆い、勢いを増し続けている。町がオカルト現象だらけになるのも当然のことだ」
優馬の胸には、はっきりと形を成さないもやもやとしたものが首をもたげていた。自分たちが想像した通りのことが、生徒会長の口から語られている。これはつまり、自分たちが龍神伝説の真相に肉薄したという証であり、同時に七瀬の先祖たちが黒幕だと決定づける証でもあった。
「でも、お父さんはそんなことどうやって知ったっていうの?」
「ふん。お前は本当に何も知らんな」
七瀬に鼻白んだ表情で答えると、生徒会長はさらに続けた。
「伯父は決して霊感の類など持っていなかった。お前たちと同じ結論に至ったのは単に努力と情熱のなせる業だ。俺から見ても見事の一言に尽きる。親戚の話では、伯父は確かに変わり者ではあったが同時に大変な努力家でもあったらしい。何でも、毎日のように家の土蔵にこもっては古い資料を漁っていたというからな。郷土史に関する造詣は若いながらもなかなかのものだったようだ」
七瀬にとっても優馬にとっても、初めて聞かされる話ばかりだったが、驚きの表情を隠せないでいる七瀬を尻目に生徒会長は話を進めていく。
「それだけの実力を持った伯父が遺した研究ノートだ。信用に値する。俺はそう考えている。伯父が研究ノートを本家に遺していたことは以前から知ってはいた。が、お前たちとの賭けの件で気になって改めて調べてみた。初めて伯父のノートを読んだ時は、そんなことがあってたまるかと思った。が、ノートの中身とお前らの主張とが殆ど同じなわけだからこれが真相なのだろう。滝上家は町に君臨すると同時に呪いも受けた。龍神による呪いが一族に憑りついたのだ。俺の母親も随分早くに死んだ。思い返せば、あれも呪いのせいだったかも知れん。叔父……いや、お前の父親もな」
七瀬は、びくりと体を竦ませる。
「じゃあ、今会長の身体に起きているのは」
「そう、龍神から受けた呪いそのものだ。これも滝上一族に生まれた者の宿命というものだろうよ」
「そんな」
栞は、今にも泣き出しそうな震えた声をやっとのことで絞り出す。が、生徒会長は目もくれずに話を続ける。
「早い話、龍神伝説が生まれた時点で既に龍神はいなかったのだよ。だからお前たちとの賭けは成立しない。仮にいたとしても、少なくともこの町にはいないのだからな。さすがに賭けの約束をした時にはこんな話は俺も知らなかった。万が一にも見ることくらいはできるかも知れないくらいの気持ちもあるにはあった。だがこうもあからさまに嘘とあってはお前たちに申し訳なくなった。とは言うものの、こんな話が広まってしまっては滝上家、ひいては町そのものの沽券に関わる。町の者も不安を抱く。だからおいそれと教えてしまうわけにはいかなかったのだよ」
「じゃあ、新聞を剥がしたのも」
「同じ理由だ。信じるかは知らんが、俺としては実に申し訳ないことをしてしまったと思っている。事情を知らないお前たちに泥を被せた挙句、真相を隠ぺいしようとしたのだからな。だがお前たちは真剣に立ち向かい、真相に迫ろうとした。その姿勢が見事なものだったことは認めよう。だからもう諦めろ。これ以上は無駄なことだ」
生徒会長は改めて七瀬に向き合った。
「そういうわけだから、この賭けはなかったことにさせてくれ。秋山七瀬、お前の退学の話もなしだ」
「オカ研はどうなるのよ」
生徒会長は視線を伏せ、首を振った。
「それとこれとは話が別だ。どのみちお前が何をしたところでオカルト研の廃部は覆らん」
「嫌よ。諦めるなんて」
真夏の熱風のように七瀬が叫んでいた。
「お父さんは信じてた。龍神はいるって! 私はお父さんを信じてる。私は諦めない!」
鬼気迫る七瀬を、だが生徒会長は何ということもなく受け流す。ただし目だけは、眩しげに細めながら。
「なるほど。あの賭けを持ちかけたのはそういうわけか。会ったことすらない亡き父の名誉挽回のために頑張る娘とその仲間たち、ということか。実に感動的で結構なことじゃないか。だったら好きにすればいい。だが、これ以上続けたところでもはや何にもならんぞ。何と言っても、このことを突き止めたのは正明叔父本人なのだからな」
「そんなはずない!」
優馬は叫ばずにはいられなかった。七瀬は一体何のためにこの町へ戻り、自分たちは調査を続けてきたのか。七瀬が信じてきたことは何だったのか。まるで馬鹿みたいではないか。
「だから言ったではないか。後から聞きたくなかったと言うのはなしだとな。責めるなら神様か、愚かな自分にしてくれ。俺に四の五の言うのは筋違いだ。違うか」
「会長はこのままでいいんですか?」
「なに?」
逆に生徒会長に向かって問いかけたのは優馬だった。返す刀で生徒会長は鋭い視線を投げかける。
「会長の身体を蝕んでいる呪いは、やがて会長を殺すものなんですよね?」
「そう説明したはずだがな」
「いいんですか。呪いに殺されてしまっても」
生徒会長は鼻で笑うと、より一層鋭い眼光で優馬を見据えた。
「悪いが、安い挑発には乗らんぞ。呪いはもはや俺の一部だ。滝上家の者として、町を背負う者として生きるということは、そういうことだ。まあお前らには一生分からんだろうよ。特に駆け落ちなどして一族の宿命から逃げだすような連中にはな」
「あんたさっきから何なのよ! いちいち気に障る言い方してくれるじゃない?」
長い黒髪が天を衝こうかという七瀬の剣幕もどこ吹く風、生徒会長は遠くを見つめるように語り始めた。
「しかし驚いたよ。まさか叔父の研究結果に肉薄してくる連中がいるとはな。あの恐ろしい真実を明らかにするまであと一歩、というところまで手をかけてくる奴が現れるとはさすがに思わなかったぞ。俺にとってはかつて伯父が通った道筋をなぞるだけの作業だった。だからこそ恐怖したよ。一体どうやったらこんなことが突き止められるのか、とな。そんなことをやらかしてくれたお前らには心底恐ろしいと思わされた」
「だから排除しようとしたと?」
優馬の問いかけに対して、返答はなかなか返ってはこなかった。
「夏休み前までは予防のつもりだった。だが今回ばかりは本気にならざるを得なかった。こちらもなりふり構ってなどいられなかったのだよ。俺自身の目的を果たすためにな」
しばらく間を開けてからの返答は、遠回しにではあるが実質的な敗北を認める表白に他ならなかった。
「惜しいところだったな。まあ、後は部活としての残り少ない日々をせいぜい大事にして過ごすがいい。俺から言えることはここまでだ。何か他に聞くことはあるか?」
「いえ、ありません」
優馬は首を振った。これ以上何を言っていいのか分からなかった。
「では話は終わりだ。いつまでもこの部屋にいるなよ。生徒会は忙しいからな」
優馬と七瀬は生徒会長に向けて一礼すると、ただの一言も発しないままとぼとぼと生徒会室をあとにした。
優馬たちが部屋を出るのを見届けると、生徒会長は視線を栞に移した。
「姫野君、悪いが外に出ていった役員連中を呼んで来てくれないか? まだやってもらわないといけない仕事がたんまりあるもんでな」
「分かりました。失礼します」
栞は硬い表情を浮かべながら立ちあがり、そのまま部屋を出て行った。
「つまり俺の痣が見えるのも龍神から得た力とやらが理由か」
優馬が話し終えたところで生徒会長はようやく口を開いた。
「恐らくは、ですが。ところで会長は若葉については」
「当然知っている。確かに若葉の死後立て続けに起きた水害と干ばつでかなりの犠牲が出たと記録されている。これも村人たちに龍神が失望した結果、ということか」
「その通りです。龍神によるコントロールを失った自然の猛威に、村人たちは激しく動揺したのではないでしょうか。滝上一族も後になってからことの重大さに気づいたことでしょう。巫女を失うことで龍神の加護をも失ったわけですから。ですがこのままでは村人から疑いの目を向けられてしまいます。そこで、一計を案じた滝上一族は神社を大規模に改修し、形式的に龍神を祀ったのです。これが現在まで至る神社の姿です。ただ、神社の改修を正当化するだけの理由が必要でした。その理由こそが」
「龍神伝説だった。そういうことだな?」
「はい。これが僕たちの考えた『本当の』龍神伝説です」
「それは若葉から読みとったとかいう記憶から言える話か」
「確かにその通りですが、理由は他にもあります。町の歴史について改めて調べてみたところ、この町の怪異のうち殆どすべてが若葉の事件以降に生まれたものだと分かりました。大規模な災害も若葉の事件以降急増しています。これは若葉の話を裏付ける結果ではないかと思います」
「なるほどな」
生徒会長は思わしげに顎を撫でた。
「では龍神は確かにいると言うんだな? だが今は洞窟の奥へ帰ってしまったためにこの町に龍神はいないと言うのだな?」
話のとっかかりを探すように生徒会長は部屋の天井へ視線を巡らせた。優馬はその表情に一抹の不安を覚えたものの、十分に考えるほどの余裕はなかった。
「信じるかどうかは任せる。が、誰が何と言おうと、これから俺が話すのは全て正明伯父が遺した研究ノートから得たものだ」
生徒会長は反応を待つまでもなく語り始めた。
「伯父はオカルト研究会を立ち上げた張本人なわけだが、高校を卒業した後も個人的に研究を続けていたようだ」
「オカ研をお父さんが?」
「なんだ、知らなかったのか。オカルト研を作ったのは正明伯父だ」
七瀬が驚きの声を上げるも、生徒会長は大した感興もなく話を続けた。
「結果として、オカルト現象と龍神、若葉の一連の事件との関連に気づいたらしい。この町は別名『オカルト現象の町』などと呼ばれているが、実に的確に言い当てている。お前もオカルト研なぞにいるからには、この町が如何に奇怪な事件を多く抱えるかくらいは見聞きしているだろう」
優馬は深くうなずいた。町で起こる数々の怪奇現象の真相を追及、究明することこそオカルト研究会の存在理由そのものなのだから。
だが、生徒会長は口の端を歪ませ自嘲するようにくっくと笑った。
「お前たちの推測は正しい。オカルト現象の元凶を作ったのは滝上一族だ。奴らが若葉を死なせ、龍神を追い返したのだ。龍神の怒りや恨み憎しみは呪いとなって今もなお消えることなくこの町を覆い、勢いを増し続けている。町がオカルト現象だらけになるのも当然のことだ」
優馬の胸には、はっきりと形を成さないもやもやとしたものが首をもたげていた。自分たちが想像した通りのことが、生徒会長の口から語られている。これはつまり、自分たちが龍神伝説の真相に肉薄したという証であり、同時に七瀬の先祖たちが黒幕だと決定づける証でもあった。
「でも、お父さんはそんなことどうやって知ったっていうの?」
「ふん。お前は本当に何も知らんな」
七瀬に鼻白んだ表情で答えると、生徒会長はさらに続けた。
「伯父は決して霊感の類など持っていなかった。お前たちと同じ結論に至ったのは単に努力と情熱のなせる業だ。俺から見ても見事の一言に尽きる。親戚の話では、伯父は確かに変わり者ではあったが同時に大変な努力家でもあったらしい。何でも、毎日のように家の土蔵にこもっては古い資料を漁っていたというからな。郷土史に関する造詣は若いながらもなかなかのものだったようだ」
七瀬にとっても優馬にとっても、初めて聞かされる話ばかりだったが、驚きの表情を隠せないでいる七瀬を尻目に生徒会長は話を進めていく。
「それだけの実力を持った伯父が遺した研究ノートだ。信用に値する。俺はそう考えている。伯父が研究ノートを本家に遺していたことは以前から知ってはいた。が、お前たちとの賭けの件で気になって改めて調べてみた。初めて伯父のノートを読んだ時は、そんなことがあってたまるかと思った。が、ノートの中身とお前らの主張とが殆ど同じなわけだからこれが真相なのだろう。滝上家は町に君臨すると同時に呪いも受けた。龍神による呪いが一族に憑りついたのだ。俺の母親も随分早くに死んだ。思い返せば、あれも呪いのせいだったかも知れん。叔父……いや、お前の父親もな」
七瀬は、びくりと体を竦ませる。
「じゃあ、今会長の身体に起きているのは」
「そう、龍神から受けた呪いそのものだ。これも滝上一族に生まれた者の宿命というものだろうよ」
「そんな」
栞は、今にも泣き出しそうな震えた声をやっとのことで絞り出す。が、生徒会長は目もくれずに話を続ける。
「早い話、龍神伝説が生まれた時点で既に龍神はいなかったのだよ。だからお前たちとの賭けは成立しない。仮にいたとしても、少なくともこの町にはいないのだからな。さすがに賭けの約束をした時にはこんな話は俺も知らなかった。万が一にも見ることくらいはできるかも知れないくらいの気持ちもあるにはあった。だがこうもあからさまに嘘とあってはお前たちに申し訳なくなった。とは言うものの、こんな話が広まってしまっては滝上家、ひいては町そのものの沽券に関わる。町の者も不安を抱く。だからおいそれと教えてしまうわけにはいかなかったのだよ」
「じゃあ、新聞を剥がしたのも」
「同じ理由だ。信じるかは知らんが、俺としては実に申し訳ないことをしてしまったと思っている。事情を知らないお前たちに泥を被せた挙句、真相を隠ぺいしようとしたのだからな。だがお前たちは真剣に立ち向かい、真相に迫ろうとした。その姿勢が見事なものだったことは認めよう。だからもう諦めろ。これ以上は無駄なことだ」
生徒会長は改めて七瀬に向き合った。
「そういうわけだから、この賭けはなかったことにさせてくれ。秋山七瀬、お前の退学の話もなしだ」
「オカ研はどうなるのよ」
生徒会長は視線を伏せ、首を振った。
「それとこれとは話が別だ。どのみちお前が何をしたところでオカルト研の廃部は覆らん」
「嫌よ。諦めるなんて」
真夏の熱風のように七瀬が叫んでいた。
「お父さんは信じてた。龍神はいるって! 私はお父さんを信じてる。私は諦めない!」
鬼気迫る七瀬を、だが生徒会長は何ということもなく受け流す。ただし目だけは、眩しげに細めながら。
「なるほど。あの賭けを持ちかけたのはそういうわけか。会ったことすらない亡き父の名誉挽回のために頑張る娘とその仲間たち、ということか。実に感動的で結構なことじゃないか。だったら好きにすればいい。だが、これ以上続けたところでもはや何にもならんぞ。何と言っても、このことを突き止めたのは正明叔父本人なのだからな」
「そんなはずない!」
優馬は叫ばずにはいられなかった。七瀬は一体何のためにこの町へ戻り、自分たちは調査を続けてきたのか。七瀬が信じてきたことは何だったのか。まるで馬鹿みたいではないか。
「だから言ったではないか。後から聞きたくなかったと言うのはなしだとな。責めるなら神様か、愚かな自分にしてくれ。俺に四の五の言うのは筋違いだ。違うか」
「会長はこのままでいいんですか?」
「なに?」
逆に生徒会長に向かって問いかけたのは優馬だった。返す刀で生徒会長は鋭い視線を投げかける。
「会長の身体を蝕んでいる呪いは、やがて会長を殺すものなんですよね?」
「そう説明したはずだがな」
「いいんですか。呪いに殺されてしまっても」
生徒会長は鼻で笑うと、より一層鋭い眼光で優馬を見据えた。
「悪いが、安い挑発には乗らんぞ。呪いはもはや俺の一部だ。滝上家の者として、町を背負う者として生きるということは、そういうことだ。まあお前らには一生分からんだろうよ。特に駆け落ちなどして一族の宿命から逃げだすような連中にはな」
「あんたさっきから何なのよ! いちいち気に障る言い方してくれるじゃない?」
長い黒髪が天を衝こうかという七瀬の剣幕もどこ吹く風、生徒会長は遠くを見つめるように語り始めた。
「しかし驚いたよ。まさか叔父の研究結果に肉薄してくる連中がいるとはな。あの恐ろしい真実を明らかにするまであと一歩、というところまで手をかけてくる奴が現れるとはさすがに思わなかったぞ。俺にとってはかつて伯父が通った道筋をなぞるだけの作業だった。だからこそ恐怖したよ。一体どうやったらこんなことが突き止められるのか、とな。そんなことをやらかしてくれたお前らには心底恐ろしいと思わされた」
「だから排除しようとしたと?」
優馬の問いかけに対して、返答はなかなか返ってはこなかった。
「夏休み前までは予防のつもりだった。だが今回ばかりは本気にならざるを得なかった。こちらもなりふり構ってなどいられなかったのだよ。俺自身の目的を果たすためにな」
しばらく間を開けてからの返答は、遠回しにではあるが実質的な敗北を認める表白に他ならなかった。
「惜しいところだったな。まあ、後は部活としての残り少ない日々をせいぜい大事にして過ごすがいい。俺から言えることはここまでだ。何か他に聞くことはあるか?」
「いえ、ありません」
優馬は首を振った。これ以上何を言っていいのか分からなかった。
「では話は終わりだ。いつまでもこの部屋にいるなよ。生徒会は忙しいからな」
優馬と七瀬は生徒会長に向けて一礼すると、ただの一言も発しないままとぼとぼと生徒会室をあとにした。
優馬たちが部屋を出るのを見届けると、生徒会長は視線を栞に移した。
「姫野君、悪いが外に出ていった役員連中を呼んで来てくれないか? まだやってもらわないといけない仕事がたんまりあるもんでな」
「分かりました。失礼します」
栞は硬い表情を浮かべながら立ちあがり、そのまま部屋を出て行った。