けれども優馬ははっきりと見た。決して見間違いなどではなかった。
隣を見るとちょうど七瀬と目が合った。顔にははっきりと怯えが浮かんでいる。
聞くまでもなかった。七瀬にもあれが見えている。優馬が黙ってうなずくと、七瀬は少しだけ表情を和らげた。
けれども、両方に見えるからと言って何も状況は好転していない。生徒会長の体に怪異が起きていると分かったに過ぎない。
優馬はもう一度よく確かめようと、少しずつ位置を変えながら前へ前へと進み出る。が、机の足につま先を引っ掛けると、見事なズッコケぶりで部屋のど真ん中に大の字を描いていた。
優馬が顔を上げたところで、既に後の祭りだった。どんな些細な動きも見逃すまいと、生徒会役員全ての視線が優馬へ注がれている。
何かあれば無難な方へ。事なかれ主義を貫いてひたすら目立たないように日の当らない部分を生きてきた。そんな優馬のメンタリティが戻れ戻れの大合唱。今までならここはもう全力の謝罪と迅速な撤退以外あり得ない。
だが優馬は引き下がらなかった。今ここで言えなかったら、これからもずっと言えないままの人生になる。そんな崖っぷちの危機感が、優馬に勢いを与えていた。
優馬が立ちあがろうとするのを、生徒会長は捻じ伏せるように視線で威圧する。沸き立つ溶岩のようなプレッシャーを感じながらも、優馬はその場に踏みとどまっていた。逆に一歩踏み出し、生徒会長のすぐ目の前へと進み出る。
「会長、あなたは一体……」
「止めてください!」
何者なんですか、と続けようとした優馬の声は、けれども時を同じくして放たれた絶叫によってかき消されてしまった。壁に跳ね返った声がわんわんと残響を残しながら収束すると、部屋には呼吸すら躊躇われるほどの緊迫した沈黙だけが残された。
声の主は栞。
よほどの葛藤を抱えてのことだったのだろう、栞は荒い息に肩を揺らし、額にはいくつもの汗が滲み、ほつれた髪のうちの何本かが肌に張り付いている。まだ残暑厳しい屋外を全力で走ってきたかのように。凍てついた部屋の中で会長に匹敵するほどの異様を見せている。
優馬は言葉の腰を折られ、また一体何のためにここまでせり出してきたのかもあやふやになってしまい酷く気まずい思いを抱えながら天井を見上げた。
ところが会長は優馬の葛藤など知らないどころか、今までのことすら知らないとでも言うように不思議そうに辺りを見回している。
「おいどうした。また随分と寒いな。空調の設定温度がおかしいんじゃないのか? 無駄遣いはするなといつも言ってるだろう。あと、早く窓を開けてくれ。おい何だあれは。机まで倒れてるじゃないか」
怪訝な顔を浮かべたまま互いの顔を見合いながらも役員たちはのろのとと立ちあがり、一人は空調を止める振り、他は窓を全開に開け放つと、倒されたままになっている机の元へと向かう。
が、そんなやりとりなど優馬の視界に入ってはいなかった。後ろを振り向いた会長の衿からのぞいた首筋の辺り。ほんの一瞬ではあったが、どす黒く染まった皮膚が垣間見えた。優馬は、脳裏に生徒会長に呼び出されたあの日のことが鮮明にフラッシュバックしてくるのを感じていた。
「会長の身体、どこかおかしいんじゃありませんか?」
生徒会長はほんの一瞬だけ表情が固まった。意図的に作ったのではなく、自然とそうなってしまったことが明白な歪な表情のまま。けれどもすぐに元の表情に戻ると、さも愉快気に肩を揺すった。
「おかしいだと?」
おかしいのはお前の方だ。そう言わんばかりに。
けれども優馬は揺るがない。揺るがないだけの確信があった。
「何のつもりか知らんが、言ってくれるではないか。だったら、どこがおかしいのか言ってみろ」
優馬はゆっくりと息を吸い、同じようにゆっくりと吐き出す。さらにもう一度同じ動作を繰り返すと、再び生徒会長に向き直った。迷いは残っていなかった。
「会長の眼帯は何のためのものですか?」
一瞬の間を置き、生徒会長の豪快な笑い声が生徒会室に響いた。
「オカルト研は揃いも揃って馬鹿だな。お前は眼帯の使い方も知らんのか?」
優馬は答えずに質問を重ねていく。
「もう一つ。以前会長が顔に貼られていた絆創膏。あれは何のために貼られていたものですか? 傷を保護するためではありませんよね?」
「な……」
答えなど分かりきっている。にも関わらず生徒会長は言葉に詰まった。
「さらにお尋ねします。会長が着ておられる長袖。これは一体何のためのものですか?」
「ばかばかしい。俺が着たくて着ているのだ。何ら問題あるまい」
生徒会長の顔は、けれども明らかに動揺していた。目を忙しなく瞬かせ、滅多に触ることのない鼻を忙しなく弄っている。いつもの余裕に満ちた生徒会長の姿は、ない。
「今ようやく思い出しました。以前、会長の首筋に黒い染みがありました。他の場所は上手く隠してきたつもりかも知れませんが、首の後ろまでは確かめられなかったのではありませんか?」
「まさか」
生徒会長はゆらゆらと立ち上がると、スローモーションのような間延びした動きで優馬の元へと歩み寄ってきた。眼帯で覆われていない右目は、目一杯に見開かれながら瞳を細かく左右に震わせている。
「お前……見えるのか」
「はい」
優馬は深くうなずいた。かつて圧倒的な力関係にあった会長と優馬。二人の関係が劇的に転換しようとしていた。
心臓は高鳴り、体は震える。それでも、ここで目を逸らしてはいけないと強く感じていた。一旦目を逸らしてしまえば、一気におかしな方へ流れていく。優馬には、そんな気がしてならなかった。
会長はなおも抉るように優馬を睨んでいた。優馬もまたその目を黙って見返す。が、長くは続かない。会長は視線を外すと大きく息を吐き出して目を瞑り、数秒ほど沈黙した。それから鋭く目を見開くと身をひるがえし、役員たちを一瞥した。
「オカ研の連中と話がしたい。悪いが暫く部屋を外してくれ」
一様に怯えた表情でいた役員たちはただこくこくとうなずくと、先を争うように部屋を出て行った。
「姫野君。君もだ」
が、栞だけは他の役員たちが退出した後も椅子に留まったまま動こうとはしない。
「聞こえないのか」
「嫌です」
危うく可細い声だった。
「ん?」
「嫌です!」
栞は今度こそはっきりと言いきった。叫ぶような声に、耳を近づけていた生徒会長は思わず飛びのいた。
「どうしてもか」
しかめ面の生徒会長が耳を擦りながら栞の意思を確かめると、栞はおもちゃを強請る子どものようにむくれたまま不満げにうなずいた。栞が生徒会長に対して見せる、初めての我がままだった。
生徒会長は即答する代わりに両腕を組みながらふーっとため息をつき、「わかった。好きにするがいい」と、どこか諦めたような気の抜けた表情で渋々了承してみせた。
「ということだが、構わないか?」
「はい」
優馬としては、栞がいることで何かが大きく変わるようには思えなかった。どちらかと言えば、生徒会長にとってどうなのか。問題はあちら側にあるような気がした。
「七瀬もいいよ……ね?」
優馬はほんの確認のつもりで聞いたつもりだった。が、七瀬はいかにも不機嫌そうに眇めた目で栞を見据えていて、言葉の勢いを削がれてしまう。
「七瀬?」
「聞こえてるって。私は別にいいから」
「あっ、いやでも」
「だからいいって!」
なおも食い下がろうとする優馬の視線を七瀬は疎ましげに手で追い払った。
「では聞かせてもらおうか」
生徒会長は重々しい口調で言い放った。けれども優馬は呼びかけにすぐには答えず、溜まったガスを抜くように息を吐き出した。それから表情をぎゅっと引き締めて顔を上げ、再び生徒会長と対峙する。
「眼帯、長袖、それに絆創膏。これらは全て黒い斑点を隠すためのものですね?」
生徒会長は優馬の問いかけを聞いても、すぐに答えようとはしなかった。代わりに天井を見上げるとわずかに口を開け、「はぁ」と短くため息をつく。生徒会長の表情は、悲愴感と言うよりもむしろ安堵のものとして優馬の目に映って見えた。
視線を天井から戻した生徒会長は眼帯を留めているゴムを耳から外し、ゆっくりと取り払った。
優馬は思わず目を見張った。感じていた気持ちの悪さは、確信へと変わっていた。
眼帯の下から現れたのは、目でないどころか名状しがたい何かだった。本来であれば瞳があるはずの部分に、黒々とした何かがいくつも渦を巻きながら重なり合っていた。
それだけでは収まらず、時折眼球を飛び出しては顔面にまで広がっている。養分を吸って太りに太った寄生虫が蠢いているかのようだった。
七瀬は、生徒会長の目に巣食う物を目の当たりにすると悲鳴を上げながら後ろへ飛びのいた。
だがそんな反応にも生徒会長はさしたる動揺を見せなかった。七瀬の反応は予想の範囲内。言外にそう語っている。生徒会長の冷静さが優馬には却って恐ろしかった。一体どれほどの葛藤を乗り越えたらこんな心境に至れるのか。
得体の知れないものに憑り付かれ、体が徐々に侵されていくのを目の当たりにしながら、一方で何事もないかのように生きていく。などということは優馬の想像をはるかに超えていた。足元を削られるようにして広がっていく真っ黒い大穴のような、なんとも言えない恐ろしさだけが優馬の心に重く圧し掛かってくる。
「で、何故お前にはこれが見える?」
「説明すると少し長いのですが、よろしいですか」
「構わん、話せ」
既に覚悟はできている。そう言わんばかりに生徒会長の目には並々ならぬ光が宿っていた。生徒会長を追い詰めたはずの優馬は、逆に手の内を明かさないわけには行かない状況へと追い込まれていた。
隣を見るとちょうど七瀬と目が合った。顔にははっきりと怯えが浮かんでいる。
聞くまでもなかった。七瀬にもあれが見えている。優馬が黙ってうなずくと、七瀬は少しだけ表情を和らげた。
けれども、両方に見えるからと言って何も状況は好転していない。生徒会長の体に怪異が起きていると分かったに過ぎない。
優馬はもう一度よく確かめようと、少しずつ位置を変えながら前へ前へと進み出る。が、机の足につま先を引っ掛けると、見事なズッコケぶりで部屋のど真ん中に大の字を描いていた。
優馬が顔を上げたところで、既に後の祭りだった。どんな些細な動きも見逃すまいと、生徒会役員全ての視線が優馬へ注がれている。
何かあれば無難な方へ。事なかれ主義を貫いてひたすら目立たないように日の当らない部分を生きてきた。そんな優馬のメンタリティが戻れ戻れの大合唱。今までならここはもう全力の謝罪と迅速な撤退以外あり得ない。
だが優馬は引き下がらなかった。今ここで言えなかったら、これからもずっと言えないままの人生になる。そんな崖っぷちの危機感が、優馬に勢いを与えていた。
優馬が立ちあがろうとするのを、生徒会長は捻じ伏せるように視線で威圧する。沸き立つ溶岩のようなプレッシャーを感じながらも、優馬はその場に踏みとどまっていた。逆に一歩踏み出し、生徒会長のすぐ目の前へと進み出る。
「会長、あなたは一体……」
「止めてください!」
何者なんですか、と続けようとした優馬の声は、けれども時を同じくして放たれた絶叫によってかき消されてしまった。壁に跳ね返った声がわんわんと残響を残しながら収束すると、部屋には呼吸すら躊躇われるほどの緊迫した沈黙だけが残された。
声の主は栞。
よほどの葛藤を抱えてのことだったのだろう、栞は荒い息に肩を揺らし、額にはいくつもの汗が滲み、ほつれた髪のうちの何本かが肌に張り付いている。まだ残暑厳しい屋外を全力で走ってきたかのように。凍てついた部屋の中で会長に匹敵するほどの異様を見せている。
優馬は言葉の腰を折られ、また一体何のためにここまでせり出してきたのかもあやふやになってしまい酷く気まずい思いを抱えながら天井を見上げた。
ところが会長は優馬の葛藤など知らないどころか、今までのことすら知らないとでも言うように不思議そうに辺りを見回している。
「おいどうした。また随分と寒いな。空調の設定温度がおかしいんじゃないのか? 無駄遣いはするなといつも言ってるだろう。あと、早く窓を開けてくれ。おい何だあれは。机まで倒れてるじゃないか」
怪訝な顔を浮かべたまま互いの顔を見合いながらも役員たちはのろのとと立ちあがり、一人は空調を止める振り、他は窓を全開に開け放つと、倒されたままになっている机の元へと向かう。
が、そんなやりとりなど優馬の視界に入ってはいなかった。後ろを振り向いた会長の衿からのぞいた首筋の辺り。ほんの一瞬ではあったが、どす黒く染まった皮膚が垣間見えた。優馬は、脳裏に生徒会長に呼び出されたあの日のことが鮮明にフラッシュバックしてくるのを感じていた。
「会長の身体、どこかおかしいんじゃありませんか?」
生徒会長はほんの一瞬だけ表情が固まった。意図的に作ったのではなく、自然とそうなってしまったことが明白な歪な表情のまま。けれどもすぐに元の表情に戻ると、さも愉快気に肩を揺すった。
「おかしいだと?」
おかしいのはお前の方だ。そう言わんばかりに。
けれども優馬は揺るがない。揺るがないだけの確信があった。
「何のつもりか知らんが、言ってくれるではないか。だったら、どこがおかしいのか言ってみろ」
優馬はゆっくりと息を吸い、同じようにゆっくりと吐き出す。さらにもう一度同じ動作を繰り返すと、再び生徒会長に向き直った。迷いは残っていなかった。
「会長の眼帯は何のためのものですか?」
一瞬の間を置き、生徒会長の豪快な笑い声が生徒会室に響いた。
「オカルト研は揃いも揃って馬鹿だな。お前は眼帯の使い方も知らんのか?」
優馬は答えずに質問を重ねていく。
「もう一つ。以前会長が顔に貼られていた絆創膏。あれは何のために貼られていたものですか? 傷を保護するためではありませんよね?」
「な……」
答えなど分かりきっている。にも関わらず生徒会長は言葉に詰まった。
「さらにお尋ねします。会長が着ておられる長袖。これは一体何のためのものですか?」
「ばかばかしい。俺が着たくて着ているのだ。何ら問題あるまい」
生徒会長の顔は、けれども明らかに動揺していた。目を忙しなく瞬かせ、滅多に触ることのない鼻を忙しなく弄っている。いつもの余裕に満ちた生徒会長の姿は、ない。
「今ようやく思い出しました。以前、会長の首筋に黒い染みがありました。他の場所は上手く隠してきたつもりかも知れませんが、首の後ろまでは確かめられなかったのではありませんか?」
「まさか」
生徒会長はゆらゆらと立ち上がると、スローモーションのような間延びした動きで優馬の元へと歩み寄ってきた。眼帯で覆われていない右目は、目一杯に見開かれながら瞳を細かく左右に震わせている。
「お前……見えるのか」
「はい」
優馬は深くうなずいた。かつて圧倒的な力関係にあった会長と優馬。二人の関係が劇的に転換しようとしていた。
心臓は高鳴り、体は震える。それでも、ここで目を逸らしてはいけないと強く感じていた。一旦目を逸らしてしまえば、一気におかしな方へ流れていく。優馬には、そんな気がしてならなかった。
会長はなおも抉るように優馬を睨んでいた。優馬もまたその目を黙って見返す。が、長くは続かない。会長は視線を外すと大きく息を吐き出して目を瞑り、数秒ほど沈黙した。それから鋭く目を見開くと身をひるがえし、役員たちを一瞥した。
「オカ研の連中と話がしたい。悪いが暫く部屋を外してくれ」
一様に怯えた表情でいた役員たちはただこくこくとうなずくと、先を争うように部屋を出て行った。
「姫野君。君もだ」
が、栞だけは他の役員たちが退出した後も椅子に留まったまま動こうとはしない。
「聞こえないのか」
「嫌です」
危うく可細い声だった。
「ん?」
「嫌です!」
栞は今度こそはっきりと言いきった。叫ぶような声に、耳を近づけていた生徒会長は思わず飛びのいた。
「どうしてもか」
しかめ面の生徒会長が耳を擦りながら栞の意思を確かめると、栞はおもちゃを強請る子どものようにむくれたまま不満げにうなずいた。栞が生徒会長に対して見せる、初めての我がままだった。
生徒会長は即答する代わりに両腕を組みながらふーっとため息をつき、「わかった。好きにするがいい」と、どこか諦めたような気の抜けた表情で渋々了承してみせた。
「ということだが、構わないか?」
「はい」
優馬としては、栞がいることで何かが大きく変わるようには思えなかった。どちらかと言えば、生徒会長にとってどうなのか。問題はあちら側にあるような気がした。
「七瀬もいいよ……ね?」
優馬はほんの確認のつもりで聞いたつもりだった。が、七瀬はいかにも不機嫌そうに眇めた目で栞を見据えていて、言葉の勢いを削がれてしまう。
「七瀬?」
「聞こえてるって。私は別にいいから」
「あっ、いやでも」
「だからいいって!」
なおも食い下がろうとする優馬の視線を七瀬は疎ましげに手で追い払った。
「では聞かせてもらおうか」
生徒会長は重々しい口調で言い放った。けれども優馬は呼びかけにすぐには答えず、溜まったガスを抜くように息を吐き出した。それから表情をぎゅっと引き締めて顔を上げ、再び生徒会長と対峙する。
「眼帯、長袖、それに絆創膏。これらは全て黒い斑点を隠すためのものですね?」
生徒会長は優馬の問いかけを聞いても、すぐに答えようとはしなかった。代わりに天井を見上げるとわずかに口を開け、「はぁ」と短くため息をつく。生徒会長の表情は、悲愴感と言うよりもむしろ安堵のものとして優馬の目に映って見えた。
視線を天井から戻した生徒会長は眼帯を留めているゴムを耳から外し、ゆっくりと取り払った。
優馬は思わず目を見張った。感じていた気持ちの悪さは、確信へと変わっていた。
眼帯の下から現れたのは、目でないどころか名状しがたい何かだった。本来であれば瞳があるはずの部分に、黒々とした何かがいくつも渦を巻きながら重なり合っていた。
それだけでは収まらず、時折眼球を飛び出しては顔面にまで広がっている。養分を吸って太りに太った寄生虫が蠢いているかのようだった。
七瀬は、生徒会長の目に巣食う物を目の当たりにすると悲鳴を上げながら後ろへ飛びのいた。
だがそんな反応にも生徒会長はさしたる動揺を見せなかった。七瀬の反応は予想の範囲内。言外にそう語っている。生徒会長の冷静さが優馬には却って恐ろしかった。一体どれほどの葛藤を乗り越えたらこんな心境に至れるのか。
得体の知れないものに憑り付かれ、体が徐々に侵されていくのを目の当たりにしながら、一方で何事もないかのように生きていく。などということは優馬の想像をはるかに超えていた。足元を削られるようにして広がっていく真っ黒い大穴のような、なんとも言えない恐ろしさだけが優馬の心に重く圧し掛かってくる。
「で、何故お前にはこれが見える?」
「説明すると少し長いのですが、よろしいですか」
「構わん、話せ」
既に覚悟はできている。そう言わんばかりに生徒会長の目には並々ならぬ光が宿っていた。生徒会長を追い詰めたはずの優馬は、逆に手の内を明かさないわけには行かない状況へと追い込まれていた。