優しく抱き締められても、抱き締め返せなかった。



「あっ、そうだ」



一旦、僕から離れた。

そうすると、持っていた袋から、空くんを出してきた。



「はい、知衛、クマさん。
邦洋さんからこの子を買った経緯を聞いたよ。

何も知らなかったとはいえ、取り上げたりして、ごめんね」



本当は、今すぐにでも抱き締めたい。

けど、駄目なんだ。

強くなるためには、これは、触っちゃいけない。



「うぅん、いらない、から――。
空くんは、侑海君にあげたから、もう侑海君のだよ」


「空くんって、このクマさんの名前?」



あっ、駄目だ。
余計なことをいってしまった。



「空、か。
知衛のパパも好きだったね」



懐かしそうに話すその顔は、僕の思い浮かべていた反応と違っていた。



「知衛も空好きなの?
名前につけるくらいだもんね」



懐かしそうに楽しく話すお母さんを見て、今なら話せる気がした。



「パパが言ってたから――。
空は、何処までも繋がっているって。

悲しくて、雨が降ったりするけど、
楽しくて、太陽が晴れ渡るときもある。

パパにとっての太陽はお母さんだって、

笑顔は、どんなものも吹き飛ばしてくれる
とってもキラキラした太陽なんだって――。

そう言われたから、お母さんの笑顔だけは
守りたかった。

それに、パパと約束した。

『ママの笑顔を守るんだ、二人で――』

そう言われた、パパがいない今、僕しか守れる人はいないから」



お母さんの方が全く見れなかった。