その時、病室のドアが開いた。



「あっ、知衛、おはよう」


「どうしたら、早くお家に帰れるの?」


「数日は、入院してもらうよ」


「そんなことしてたら、忘れられちゃう」



早く戻らないと、早く――。



「どうして、そう思うの?」


「お母さんは、僕の名前呼んでくれること無いから、きっと忘れているから――。
だから、次は、顔も全部忘れられちゃうよ」


「そんなことは、ないだろう」


「僕は、早く大人になって、迷惑かけないくらい、もっと、もっと、我慢強い人になりたいよ。
そうすれば、忘れられても平気で居られる」



お母さんには、楽しいことして欲しい。

僕なんかよりも大切な人は沢山いるから、僕の事なんて、気にしなくていい。

分かってるから――。



「僕は、お母さんにとって僕は邪魔な物でしかない。

けど、お母さんの子は僕しかいないから――、僕が唯一自慢できることは、お母さんから命を貰った事なんだよ。

だから、お母さんの為なら、何でもきっと出来るから、大丈夫なんだよ。

僕に向けられた愛なんてなくてもいいから、側にいさせて欲しい。

会話もしなくてもいいから、ウザくて良いから、ただ、お母さんの側にいさせて欲しい。

今だけは、子供の間は少し甘えさせて」



言葉を発する度、声が力を無くしていく。



「母さん、これが知衛の気持ちだと思うよ」



病室にお母さんが入ってきた。



「お母、さん」



今の聞かれた。
また、笑顔を奪ってしまった。



「知衛、ごめんね」



また、泣かせてしまう。



「知衛、頑張ってたの、分かってたのに、この子なら平気って思って――。

お母さん、知衛に酷いことしてたね。
ごめんね、知衛」



涙を流しながら、僕の事を優しく抱きしめてくれた。


でも、この行為に甘えちゃいけない。

もっと、強くなるためには、甘えちゃいけないんだ。