複数の飲食店やカラオケ店などが入っている、8階建ての商業ビル。目指すはここの6階だ。
下りのエレベーターに6階から客が乗り込んできたのだろうか、6のボタンに一旦灯った灯りは、地上1階で停止した。定員いっぱいの人数が次々とエレベーターから降りてくる。
すると、中から見覚えのある一人の男性が目に留まった。
「おー、待たせたか。お疲れさん」
ニっと笑うその顔は、何年かぶりに見る瑞樹の笑顔。胸がぎゅっと締め付けられたけれど、気づかないふりをした。
エレベーターに乗ると、おもむろに髪の毛に触れられる。
「髪、切ったのか」
「うん」
何か言いたそうな瑞樹の言葉を遮るように口を開いた。
「変? 高校のときくらいでしょ」
「……ん、そうだな。悪くないんじゃね」
「そこは似合ってるって言っておいてよ」
ぺしっと背中を叩き、軽口をたたいて見せた。
「久しぶり、百合子ちゃん。とりあえず座って」
席へ向かうと久しぶりに見る蒼佑くんの姿があった。どこに座ろうかと立ちすくんでいると、瑞樹が「奥に座れよ」と促してくれる。
「上着かけるか?」
何事もなかったように自然にふるまってくれるのは嬉しい。けれど、私はなぜここにいるんだろうと、ふと疑問に思った。
とりあえず、ビールを頼んで乾杯をする。
あれから何度か、蒼佑くんに飲みに誘われて会うこともあったけれど、特別興味をそそるような話をした覚えはない。そこそこの愚痴と、そこそこの世間話なんかの、当たり障りのない会話。
対して蒼佑くんも、あれこれ土足で踏み荒らすようなことはせず、適度な距離感を保ってきたつもりだった。
それが不服だったのだろうか、今日は、今までにないくらい質問が飛んできた。
瑞樹とは高校の同級生だったこと、三年間クラスが一緒だったこと、上京してくる前は地元にいたこと。
地元は何が有名かとか、今の仕事に就いた理由とか。
一つ不服なのは、今まで蒼佑くんの前では煙草を吸ったことはなくて、瑞樹の余計な一言でばれてしまったけれど、無難に上手く切り返せたと思う。
同僚やら同級生やら飲み友達の集まりだったということもあって、思っていたより気負わず話せていたように感じる。
充実感に満ち足りて余韻に浸っているときに、思いもよらぬ一言が投下された。
「付き合ってたよ、コイツと俺」