「ごめん。本当はごめんって思ってなかった」

「え?」

「蒼佑くん、そんな不自由してないでしょ。今たまたまいないだけで。当たってる?」

「……間違ってはない、ないです……」

「やっぱり」

「……けど、今はこうして独り身、だし……」



 シュンと俯く様子がまるで子犬みたいだ。

ふと我に返り、自分が寂しい独身女だからといって、何を八つ当たりしているのだろうか。しかも、よく知りもしない人に。

今度ばかりは平謝りをし、慌ててペラペラと言葉を並べた。






 詫びを入れると、笑って「いいよ、本当のことだから」と苦笑いを浮かべる。


話を聞くと、どうやら一癖ある恋愛経験をしてきたと教えてくれた。



人見知りということに違いはないが、つき合ってはなぜか浮気をされて別れに至る、を数回繰り返したおかげで女性に対してあまり良い印象がないのだという。

それでいて、性欲が人並みにあるから困ったものだと目尻を下げて、力なく笑っていた。



この歳になるとそんなこともあるのだろうな、人は見た目で判断できないな、と数分前の偏見を案じた。

ごめんよ蒼佑くん、私が悪かったと心の中で陳謝したけれど、何か上手いフォローを入れられるだけの器用さは私にはなかった。





その代わり、同僚がぶりっこな後輩にバケネコという凄まじいあだ名をつけているとか、仕事で失敗して3日間家に帰ることができなかったとか、

未だに学生の頃のジャージを家着にしていて、急な友人の訪問に耐えられないとか、自分も恋愛のアドバイスができるくらいの経験もないし処女みたいなもんです、

と笑えるかどうか微妙なラインのくだらない話をして、一緒にお酒を飲むことしかできなかった。





それでも蒼佑くんは笑い上戸だったのか、帰り際には楽しそうに笑っていて安心した。たまにはこんなのも悪くはない。

今まで食わず嫌いをして、自ら閉鎖的な交友関係に籠っていたことを少しばかり反省していた。
















 自分の価値観が少しだけ変わったあの日から数か月、それは突然訪れた。





 プルルルルルル プルルルルルル プルルルルルル
 




 マナーモードにし忘れていた携帯が、玄関先で大音量で電話の知らせを響かせる。

反射的に電話に出ようとしたが、画面には登録されていない電話番号。けれどなぜだろう、見覚えがあるような……。

少し躊躇したけれど、仕事かな? と思って応答ボタンをタップした。




「……もしもし?」