「男の一人暮らしなのに結構生活感ある部屋に住んでんの、そいつ。柔軟剤もそうだけど、洗濯ネットとか何種類かあってマメだなって。
全然そういう感じには見えなくて、てっきりシンプルな部屋に住んでるのかと思ってたんだよね。
おれ、一人暮らししたことないから尊敬しちゃった」
——間違いない。蒼佑くんの言っているミズキは、私の知っている下咲瑞樹だ。
柔軟剤だって、メジャーなブランドではないけれど、私が好んで使っていたものだし、放っておいたら下着もニットも一緒に洗濯されてしまうのが嫌で、一つもなかった洗濯ネットを何種類も揃えた。
偶然とは思えないほどの一致に、確信せざるを得なかった。
考え込んでいる様子が気難しそうに見えたのか、蒼佑くんはおちゃらけた様子で肩をすくめてみせた。
「しまった、この歳で実家暮らしって引くよね?」
ああ、そうか。そちらにひっかかっていると思われたのか。心中を悟られていないことに安堵した。
「ふふっ、大丈夫、ひかないよ」
「えっ、ほんと!?」
「だって地元でしょ? あたしだって地方から上京してるんじゃなかったら、実家住んじゃうなあ」
「ほんと? よかった、安心した! でもやっぱたまに実家から出たくなるときもあるんだよね」
「ああ、四六時中家族が一緒だとあるよね」
「えっ、百合子ちゃんもある?」
「あるよー! 家族は大好きだけど、それとこれとは別だよね」
「そう! そうなんだよ〜」
あるある話に花が咲く。
「そうなったらさ、彼女のうちに行ったらどう? 彼女さんもご実家なの?」
「ふっ、それができたらいいのに。おれ彼女いないんですよ……」
「あ、え!? そうなの? てっきりいるものかと……すみません」
「謝らなくていいよ、全然」
触れられたくない部分に触れてしまっただろうか、と謝意を表する。しかしそれは口先だけで、本当は、反省など微塵もしていない。
自分の捻じ曲がった性格は、偏った見方をしてしまうこともままあることで、容姿端麗な人が言う恋愛の悩みなど、戯言だとさえ思っている。それが友人ではない、他人であれば尚の事。
被害妄想なのはわかっている、自分が心根のいい人ではないことも痛いくらいにわかっている。
逆鱗に触れたわけではないけれど、ちょっとだけ意地悪を言いたくなってしまって、ついけちをつけてしまう。