不意に声をかけられて驚いた。


「どこのスキンケア使ってるの?」


肌ツヤがいいね、と褒められたランチ後の女子トイレで。
昨日の今日だから、揶揄われたのかと思ってしまった。



『普通に資生堂です。エリクシールの・・・けど、先輩もお綺麗ですよ?』


そんな自分が恥ずかしくて、豪快に水を流しながら歯ブラシを濯ぐ。


「本当に?おかしいなぁ、私も資生堂なんだけど。
やっぱり、恋のチカラかなぁ♡」


来た来た・・・唇を噛みながら、正しい反応を考える。
岩田さんの嘘つき。フォローして欲しい時には、いないじゃない。

セリーヌのタオルハンカチを握り締めた。



「素敵だったな、岩田くん。王子様があんな物言いするなんて、ちょっと驚いたけどね。笑」


“あんな物言い”
昨日の彼にそんな心当たりがなくて、首をかしげていると。
鏡越しに先輩と目が合った。


「そっか、萩原さんいなかったんだ。
貴女がお手洗いに立った時ね、岩田くん素敵だったんだよ。女性陣のハートは鷲掴み。」


岩田さんの一言にボロボロの心が痛くて、席を立ったあの時。
背後で聞こえた、女子の歓声が耳に蘇った。
















「近しい人には話すことにしてるって、どういう意味?」

岩「そのうち話すことになるなら、前もって言っておいたほうが面倒じゃないので。」

「なんだそれ。このまま結婚でもするつもりか?」


私を誘った先輩が、ふざけた口調で岩田さんに突っかかったらしい。


岩「俺の方は、そのつもりです。」


岩田さんは、真っ直ぐに相手を見返した後、鼻で笑って。


岩「じゃないと、社内で手なんて出しませんよ。」
















頬が鳴った。

“手を出す”なんて、王子様らしくない言い回し。
だけど、私の知る岩田さんには、とても似合う言い回し。

男っぽくて、大雑把で、強引で。
繊細に私の気持ちを汲んだりなんて、出来なくて。


だけど、誰よりも男らしくて迷わなくて。
綺麗な入れ物の中に入った心臓は、他のどんな人よりも熱くって。




「なんかいい顔してるねぇ。岩田くん、いい彼氏なんだね。」

『はい。』


岩田さんは、私の彼氏。
たった一言の返事に込めた私の独占欲、誰も気づかなくても心地いい。



「いつから好きだったの?岩田くんのこと。萩原さんの気持ちには全然気づかなかったなぁ。」

『自分でもはっきり分からないんですけど・・・結構前かも知れません。もしかしたら、岩田さんより前なのかも。』

「それってすごくない?岩田くんより前って相当前じゃない?!」

『えっ!!!岩田さんっていつから私のこと好きだったんですか?
ていうかそんな話まで昨日してたんですか?!』


先輩は、リップを塗立ての唇を大きく開いて楽しそうに笑った。








嫉妬も束縛も独占欲も。

シュガーリッチなら心地良い。



ただ甘く煮詰めて。

これから何度訪れる、切なさも痛みも。その都度塗り替えられるほどの。



蕩けるような、砂糖過多で。