______春。 始まりの春。
慣れない袖に手を通し、細いリボンを丁寧に結ぶ。
この制服は開校50周年に合わせて新しくデザインされたもので、白いベストが特徴の進学校らしい服だ。
この制服を着る。
それは"あの"国立燕烙高校の生徒になったいうことだ。
近所のひとから尊敬の目で見られ、後輩から羨望のまなざしを受ける、あの燕烙の生徒に。
「おねぇ、チコクするよ?」
「あ、由紀。呼びに来てくれたの」
妹の由紀。まだ5歳だ。
私が燕烙に合格した時、とても喜んでくれた。
「これでおねぇもエンラクセイなんだね!ユキもうれしい!」
姉思いの、自慢の妹だ。
あと数年もすれば、そうでもなくなるのかもしれないけれど。