-‐ドクン




心臓が、ひときわ大きくなる。






「あの、時…?
 …あの時、って…」




ほんとは解ってる。



でも、できれば避けたい。





「だから、
 俺が傘差し出した時のコト
 …あれ、前だっけか?」



うん、前だけど…




「お前、観覧車見て
 泣いてたじゃん?
 それが、帰りたくないのと
 何か関係あんのかなー
 …と思って」




-‐バカっぽいのに。



アホのくせして、鋭い。




「…俺の話、
 聞いてる??」


「聞いてない聞いてない
 聞いてるけど聞いてない」



意味不明な答えを返して、
あたしは晴一に背を向ける。




-‐言いたく、なかった





彼氏に振られた、
なんていったらきっと
軽い女だと思われちゃう。


彼氏に振られたその日に
他の男
(しかもしらないヤツ)
のとこに泊まるとか、
軽い女だって、
思われるに決まってる…!





「--あのさ、」


「……」



背を向けたまま、
あたしは晴一の声に耳を傾ける。



「俺さ、唄書く時…
 いっつも、自分の想いを書くんだ。
 想いを、思い付くがままに
 ただ、真っ白な紙に綴ってく」





…急に、何を言うの?




「するとさ、
 ゴチャゴチャしてて
 よくく解んなかったものが
 少しずつ見えてきたり…」


言う晴一の目が、
何かを愛しく思うかのように、
細くなる。



「イヤな出来事を、
 忘れられたり
 大事な事は、
 しっかり記憶できたり…」



細く長い指が、
ギターのボディを撫でる。



「…とにかく、
 色々スッキリするんだ」





-‐なにが、言いたいの…?




「だからさ」


「……」


「…お前も唄、
 唄ってみれば?」