------此処はオリガスの中心都市。そしてその中心都市にぎりぎり位置するしがない酒屋。
流れ者のアオが、金目当てにこの店を襲った盗人を追い返してからというもの、彼らは彼女を支える手助けをしてくれるようになったのだった。
そんな過去からもう5年は経つが、彼女がこの地に現れるようになってからというもの、店主のボエロは彼女の正体を徐々に知っていく事となる。
まずはその容姿、唯の20歳に見えないほど落ち着いた落ち着いた佇まい。ほんのり茶色い髪に吸い込まれるような黒眼。
そこら辺にいる街娘と何も変わらない、1人の人間にしか見えない。しかしその胸の奥には何か奥深い覚悟と何かを成し遂げようという闘志に燃えた、刀使いであった。
目が合った瞬間、確かな戦慄を覚えたのを自身の身体が今でも覚えている程だ。
「なに、そんなに見つめて。やだよ私、50のおっさんとは付き合えないからね!」
「……」
恐ろしく人を舐め腐っている点が玉に瑕である女ではあるが。
ボエロは立ちながらお酒を体内に注ぎ込むアオにため息をつき、次の酒を用意する。
アオはその年齢ながら中々の酒豪であった。ピシッとした国直属の制服を着崩し、光沢ある靴を暑苦しいと脱ぎ捨てたアオは唯のおっさんでしかない。
「アオ、その大層な制服着崩しちまっていいのかよ」
「ん?いいのいいの。だってこれこの国にいる時に着てればいいって言われてるし。ほんとは唯の流れ者だしね」
「……なんでお前国に忠誠誓うなんて嘘ついてきたんだっけか」
「その方がこの国で動きやすいでしょ。どっちかに属さなくちゃいけないなら、私はオリガスを選ぶね。まだこっちのお酒の方が美味しいし!」
「……刀の天才が、聞いて呆れるぜ」
アオの才は、国に重宝されていた。
最も、ボエロが言うほど剣術に優れているわけではないが、頭のキレ、そして彼女が持つその強運。数々の活躍により(いずれも偶々であることが多かったが)、国には目をつけられたのだ。
そして国に忠誠を誓う代わりにこの世界で自由を許された、国直属の戦闘要員。
だが、実際アオには心底どうでもいい称号であった。