手に持っていた煙草の火を左手で握りしめたグルーリーは、痛がるのでもなく声を躍らせて二人に提案をした。
「さて、さっさとお尻の土を払ってから中にいらっしゃい、お二人さん」
「……いいの?」
「約束は守る主義よ」
唖然とする二人を残して先に店内へ消えたグルーリーに、また二人は顔を見合わせた。
「……あれ、熱くないのかな」
「それ、俺も思ってた」
ーーーー気づけば、夕日が紅く空を染める頃になっていた。
窓がないため全く外の景色がわからないが、そろそろ町の人たちは店仕舞いをしだす頃なのだろう。……何度も思うがこの店、ただでさえ暗いのだから窓くらいつけるべきではないか。
「まずはありがとう、私、厄介ごとは苦手なのよ。何があったか知らないけど面倒な事を押し付けたわね」
「「(どうせ最初から見てたくせに……)」」
「こちらも約束は守らなきゃ、ね」
ーーーそう、本題はここからだ。
『魔女の鏡』。
こんな近くの質屋に魔女の手掛かりがあるとは思わなかったが、もしグルーリーが持っているのだとしたらまた一歩、魔女の居場所に近づける気がする。
「お茶でも入れる?」
「いや、結構です。」
「グルーリーさん、それよりも教えてほしい。
鏡は本当に、此処にあるのかーーー?」
二人の目線はもう、グルーリーの言葉を待つことにしか集中していない。彼女は思わず口を閉ざしてしまった。
…この歳でもう、あの伝説とも呼ばれた魔女を探し求めているなんて相当な覚悟と偉大な目的を持って生きているのだろう。
歳には似合わない可哀想な人生を送ってきたことが、容易に想像できた。そして逆に気になった、あの魔女の存在を探して彼女達は何をするつもりなのかを。
(…約束は守るべき、だけど)
こうも真っ直ぐだと、意地悪もしたくなるものである。