オリガスの皇帝(ギルの父)が住まい、中心都市のど真ん中に位置する本邸。そして本邸の敷地内に在る軍の国軍基地。上層部はそこで今日も優雅にお茶を飲み、決められた書類に追われ、血を見ることなく国を見下ろしていた。

いつ見てもフェンス越しにある訓練風景は、他人事のように思えてしまう。



「ーーーカルラ様、聞いていますか」

「いや」


カルラと呼ばれたこの国の権力者の"もう1人"息子は、会議の途中であるというのにまるで内容に興味を示していない様である。

彼を中心に数名の男たちが資料を眺めながら自国の行く末を話し合う、自由人であるカルラにとってそれは全くもって退屈な時間であった。何時も何を考えているか分からない金色の双眼は、それでも周りを黙らせておくだけの威圧を兼ね備えていた。

「…そもそも何故俺が呼ばれた?あの死に損ないの親父殿は何をしてる」

「暴言は慎んでいただきたい、カルラ様。貴方様のお父上はこの国のトップの方なのだからもう少しーーー」

「ああ、もういい。分かったよ、フランク殿。
俺はまた彼奴の代理人てことだろ?はやく話を進めてくれ」

「……っですから、戦闘員の中で、保持者の疑いがある者が見つかったのです!」


困り顔で怒鳴る幹部に、カルラは気怠そうに耳を傾ける。フランクが焚き付けたのは、写真付きの1人の人間の個人情報だった。

「……何だこいつは」

「数ヶ月前、戦闘要員採用試験にて強制受験させた、女です。」

「はっ、ついに見境なくなったわけか。オリガス戦闘要員の質も堕ちたものだな」



「……質?カルラ様。この者、相当な手練れですぞ。噂によれば、ある酒屋に立ち入った45人の賊をたった一人で、擦り傷一つなく、斬り捨てたとかなんとか」



ーーーー45人を、一人で?



カルラの目の色が微かに変わった。