それから、俺は彼女に別れを告げ、1人席を立った。店を出て一人寂しく家路につく。そんな時、袖を引っ張られた。首を巡らしてみれば、そこには彼女がいた。
やや上目遣いで瞳に涙を浮かべ、肩は少し震えている。頬を朱に染め、か細い声で言葉を紡ぐ。

「今夜は…一緒にいて…1人だと…不安で、震えが止まらないの…」

俺は彼女の姿を見つめた。スリットの入ったドレスから覗く脚は艶めかしく、その奥にある物へと誘っている。そして、引き締まりつつも女性らしい柔らかさを失っていない腰周り。さらに視線を上げれば、服の隙間から胸元が覗いていた。
正直、男を刺激するには十分すぎた。俺は分かっている。これはダメな誘惑だ。乗ってはいけない。理性が俺にそう叫んでいる。俺は、彼女の手を振りほどき、そして…抱きしめた。ああ、ダメだ。これはもう抗えない。俺はきっとこの美しく咲いた花を手折るだろう。それが許されてしまう。それゆえに、俺は手折るのだろう。我が物にしようと、その欲と本能に従って手折るのだろう。
空を見れば、月が輝いていた。それはまるで祝福するかのようでもあり、嘲笑うようでもあった。今夜は眠れない夜になりそうだ。