「いつものを」

俺は最低限の注文をし、マスターは無言でそれに答える。この小さく静かな空間に多くの言葉はいらない。俺は特に意味もなく店の中を見回す。裏通りにあるからか、相変わらず店内に客はいない。まあ、だからこそ俺はこの店が好きなのだが。しかし今回ばかりは、先客がいた。
赤いドレスを身にまとった美しい女性。しかし、その前にグラスはなく、どこか悲しそうな表情をしている。

「マスター、彼女にも同じものを」