プールで夕方まで遊んだ帰りのバスの中、遊び疲れたのか、恵子と、京子ちゃんは、お互いにもたれかかるように眠っている。俺とタベッチは、今回も、座れなかった。
俺の横に立つタベッチが、「京子ちゃん、可愛いな~」っと言って、ニヤけている。
「俺に感謝しろよ」って言うと、
「うん、恵子ちゃんに、有難うって言っておいてくれ」
「こらこら、俺に言えっ」
「だから、お前に言っておいてくれって言ってるだろ」
「そうでなくて、お礼を、俺に言えっていってるんたよ」
「桜井の友達だし、お膳立てしたのも、どうせ、桜井だろ」まあ、そうなんだけど・・・
「まあ、お前にも、一応、感謝はしておく」素直に、最初からそう言えばいいんだよ
「お前、これから、ど~するんだ?」
「ん?、俺も疲れたし、恵子を送ってから、飯食って寝る。お前も、京子ちゃんをキチンと送れよ。」
「いや、送るけど。俺が言いたいのは、進路っていうか、将来ってやつ」
タベッチが真剣な顔で俺を見ている。
「将来か~、まだ、全然見えね~な~」
「お前は、野球続けろよ」
「なんだよ?、お前はって?タベッチは辞めるのかよ?」
「わからねーよ、俺の事は、わからねーけど、お前は辞めちゃいけないんだよ!」
「おいおい、随分勝手な言い分だな」
「勝手なのは、判ってるけど聞いてくれ、才能の無い俺達は、三年間、死ぬほど努力して、やっと、スタートラインに、立てた。でも、お前は、才能がある上に、俺達以上の努力をしてた。三年間、お前を見てた俺は知ってるんだ。」タベッチが語り出す。
「あの試合、確かに控えの加藤の調子は良かった。受けてる俺でさえ、こりゃ、まぐれでもなきゃ打たれないと思ったよ。まあ、そのまぐれが出ちゃったんだけどな」つづけて、「でも、おまえが投げてりゃ、まぐれでも、打たれる気がしなかったと思う。」
タベッチは、泣いていた。
「あの試合で、一番くやしくて、やるせないのは、隆、お前だと思う。だから、だからこそ、ここで終わっちゃいけないんだよ。お前さえ、やる気になれば、絶対、次のステージに進めるはずなんだ。高校野球に、関わってハンカチきた三年間、テレで見た投手、実際対戦した投手、お前より、スゲー奴は、1人もいなかった!」タベッチにタオルを渡すと、わりいって言って受け取った。鼻水は、ふくなよって言うと、ばーかって、かえってきた。
「俺達、野球部員には、二つ夢があったんだ、ひとつは、甲子園で優勝する事、もうひとつは、隆がプロのマウンドに立つこと。ひとつは駄目になっちゃったけど、もうひとつの夢を叶えてくれないか?」涙をふきながら、「決めるのは、お前だし、苦労するのも、お前だから、強制はできないけどな」タオルを返しながら、「まあ、俺に手伝えることがあったら、言ってくれ、お前の、球を捕るくらい事なら、俺にもしてやれるから」