────夜。

天ではなく、魔が活発な時間。

「氷。あの…さ、そろそろ…良い?」

その言葉に氷はおもむろに刃物を手に取る。

そして──

スッと、なんの音も無く刃物が滑る。

そこから赤い鮮血が滴る。

氷は切り口を輪の方へ差し出す。

切り口に輪は口を付け、血を喉に通す。

氷の血は鉄臭くなく、むしろ甘い。

輪はそっと口を離し、口元についた血を拭う。

「ごめんね?ありがとう。」

その声は、震えていた。

「順番逆じゃない?ありがとうが先だってば。それに、輪…悪くないじゃん。謝られても…困るよ。」

輪はまた、小さく"ごめん"と言った。

神秘の森«シュヴァルアクター»には、言い伝えがある。

──魔は天に桎梏し、天は魔に強慾する──と。

つまるところ、そういうことなのだ。

2人で1つ。

離れることなど、出来はしない───