よく見ると、遺体の胸元にネズミの刺青がはいっている。

「(ネズミ?珍しいな。)」

この疑問を解消すべく友人に話しかける。

「和埜…といったか?あの男性。」

突然の事で一瞬身体を硬直させたがすぐに返答が帰ってきた。

「え?…あぁ。」

それがどうかしたのかと首を傾げる友人と思しき男に冷やかな声で言った。

「その和埜…はネズミが好きだったのか?」

それを聞いた友人と思しき男───岑冶(シンジ)は


「いやいや、逆だよ!逆!」

と腹を抱えながら言う。

「嫌い…だったのか?」

「そうだな。見るのも嫌だったんじゃないか?」


宍道の瞳を覗きこみ、真偽(しんぎ)を探る。

「そうか。ありがとう。」

そう言って、現場から立ち去った。

ジッ……ジジッ……。

瞬間、身体全体にノイズがはしる。

立っているのが辛くなり、人目につかないように路地裏に入る。

途端に足元から崩れるように膝をつく。

乱れた呼吸と思考を整える。

そして、落ち着きを取り戻し、立ち上がる。

多少のめまいこそしたが、それに構っている暇はない。

忘れていた目的地にただ急いだ。