一旦言葉を切った私に、美弥子さんは賄賂のようにバームクーヘンを差し出す。
私はあっさり袖の下を受け取った。

「半月、なんなの?」

「『ハワイで結婚式があるから』って。当然友達のだと思って『誰の?』って聞くでしょう?そうしたら、驚いた顔で『俺のに決まってるだろ』って!驚くのはこっちよ!『決まってる』わけがないじゃない!」

つい握りつぶしてしまったバームクーヘンの形を整え、個包装されているビニールを剥く。
もぐもぐ咀嚼する間も、焦れたように美弥子さんは言葉を重ねる。

「え?結婚するから別れてくれってこと?なんで半月なの?」

喉に詰まった賄賂をお茶で流し込み、空になった湯呑みを美弥子さんの方に滑らせる。
すかさずお茶が注がれて、同じルートで湯呑みが戻ってきた。

「入籍はすでに半年前にしてたの。式と新婚旅行を改めてハワイでするんだって。だから『半月くらい会えない』なの」

恋人だと思っていたのに、知らず知らずのうちに愛人になっていた。
私の生活に変化はなくても、この変化は大きい。大きすぎる。


「問題はここから。彼は私と別れるつもりはさらさらなかった。ハワイから帰ってきたタイミングで、彼はこれまでと同じように私の部屋にきたの。お土産だよってブランドバッグを持って!一体どういう神経してるんだって━━━━━」

「突き返してやったのね?」

「もらったよ。物に罪はないからね」

「じゃあ、それまだ使ってるの!?」

「さすがに処分したよー(売りました~)」

ケチじゃないところが彼の長所のひとつだ。
結局、数ある長所で補えないだけの欠点が見つかってしまったのだけど。