なんのためのケーキなのか全く触れることもなく、ふたりでただもぐもぐと食べた。
「仕事の邪魔しちゃってごめんね。送ってくれなくても一人で帰れるよ」
「大丈夫。ちょうど一区切りついたところだから。むしろ一緒にいたいから送らせて」
この程度は言われ慣れているはずなのに、いつもよりムズムズする。
さっさとイチゴショートを食べ終えたトモ君は、迷うように湯呑みを手の中でくるくると回した。
「あのね、僕の本がことばの森文学賞にノミネートされたんだよ」
「うん、知ってる。なんか帯も変わってたよね」
店では簡単ながらノミネート作品を並べて販売している。
トモ君の本も一冊売れたところだった。
他のノミネート作品はもっと売れたけど。
「その、賞が取れたら、僕と付き合ってくれない?」