動き続けていた手がまた止まった。
ディスプレイを見つめる目は相変わらず暗いけど、今度はその色が少しずつ弱まっていく。
カチッカチッとマウスを操作してふうーっと息を吐くと同時に、黒い雲は消え去った。
ポリポリと頭を掻いているのはいつものトモ君。
うーーーん!と伸びをして肩や首を動かして、彼はようやく私を視界に入れた。
「うわあっ!芽実ちゃん!いつからいたの?」
いつから?いつだっけ?
時間の感覚も場所の認識もなく、ただここにいた。
ビニール袋の中のケーキがイヤに場違いな気がして、恥ずかしくなってしまった。
「ごめん。お邪魔しました」
トモ君はすっかりいつもの彼なのに、私の方が衝撃から抜けられない。
胃の奥を締め付けられるような切ない感情に支配されて、いつものような軽口も出てこないのだ。
ボーっとしたまま部屋を出ようとする私の腕をトモ君が捕らえる。
「帰らないで」
誰の声かと耳を疑った。
いつものやわらかい声ではなく、どこか艶を含んでいたから。
振り返ると、やっぱりいつものトモ君ではなく、さっきの黒い雲の余韻のような光をたたえた目で見つめられていた。
目に見えないものを見る目。
自分でも気づかない何かを見られてしまいそうで怖くなった。
するとそれを敏感に感じたように、トモ君を包む色がやわらかくなる。
「お茶淹れるから飲んでいってよ。少しあったまったら送っていくから」