部屋の中は暗かった。
煌々と電気はついている。
それでも暗い。
この部屋にお日様がサンサンと当たっているような気がしていたのは、家主の存在のせいだったのだ。
その家主を、今は黒雲が覆っていた。
黒雲というよりもっと激しい、雷雨のような。
その黒く激しい雲が部屋に充満して、息をするのも苦しいほどだ。
トモ君は時々している、あのどこも見ていない暗い目をして、ものすごいスピードでパソコンのキーボードを叩いていた。
カタカタカタカタ、タンッ。
カタカタカタカタカタカタ・・・
まばたきひとつぜず、ただ指だけが素早く、それでも尚もどかしそうに動き続けている。
帰らなきゃ、と思う。
ここでこんな風に見ていてはいけない。
わかっていても足が動かなかった。
トモ君の眉間の皺がどんどん深くなる。
いつも笑っているから、そんな顔を見たことなかった。
苦しそうなその顔を見ていたら、知らずに私も手に汗を握っていた。
手が止まる。
目は暗いままディスプレイを向いているが、見てはいない。
時々ぼーっとしているのは、小説のことを考えていたのだ。
しばらく停止ボタンを押したように固まってから、トモ君は再び暗い目でキーボードを叩き出した。
他の作家を見たことがないから確かなことはわからないけど、創作とは本当に身を削ることなんだ。
今目の前でそれをまざまざと見せつけられている。
それはどれほどの孤独なのだろう。
もし私が彼の作品の大ファンで、隅々まで理解できたとしても、その孤独を分かち合うことは不可能だ。
作家とは、恐ろしい仕事だ。