その部屋に電気がついているのを確認したとき、それまで感じないフリをしてきた緊張が一気に高まった。
カーテンが閉められた窓からは、人が動く影は見えない。
しばらく様子を見ていたけど、さすがに寒くなってきたのと、このままだと不審者に見られかねないという思いから足を進めた。
(実際私を待ち伏せしていたあいつが不審者扱いされたこともあった。まあヤツは間違いなく不審者だけど)
ドアの前で一呼吸ついてからノック。
コンコン。
返事はない。
もう一度。今度は少し強めに。
コンコン。
やっぱり返事はない。
この狭いアパートでノックが聞こえないなんてことあるのかな?
音楽を聞いているとか?
ドアに近づいて耳を澄ましてみても、物音ひとつ聞こえなかった。
電気をつけたまま出かけているのだろうか。
さすがに最近では減ったようだけど、この辺では鍵をかけずに家を出ることもまだまだ多い。
在宅中はまずかかっていない。
美弥子さんの家でも、私が二階から降りてきたら見知らぬじいさんばあさん(もちろん美弥子さんの知り合い)が、勝手に居間でくつろいでいた、なんてこともあるのだ。
「お、芽実ちゃん。どうぞ座って座って」と、その見知らぬ人が慣れた手つきでお茶を淹れてくれたことさえある。
そういう土地柄だ。
案の定、ドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。
「御免くださーい」と小声で言いつつ玄関に踏み入った。