「一言で言うと失恋だよ」
もそもそしたバームクーヘンを玄米茶で流し込んだ美弥子さんはこの程度では納得しない。
「最初から順を追って」
「はい」
ちょっと長い話になるので、もう一度お茶を飲んだ。
「3年くらい前からね、付き合ってた人がいたの。前にいた会社の系列会社の社長令息で、見た目もよくってさ、フロアに現れるだけでキャアキャア言われちゃうような人だったんだ」
客観的に見て、私の顔は中の上ってところだろう。
スタイルの方が自信ある。
細すぎず、なめらかなラインの脚は一番の自慢で、当の社長令息・真幸が無類の脚フェチであったことが運を呼び込んだ、と思っている。
その運が幸運だったかどうかは別として。
「一緒にいて楽しいし、素敵なところに連れていってくれておいしいものをごちそうしてくれて、この世の春を謳歌してたんだよね。確かにときどき価値観の不一致を感じることもあったけど、そんなのすぐ忘れちゃうくらい好きだと思ってた」
「あれ?」と思うことがあっても、脚をなでられながら甘い言葉をささやかれると、その誘惑でどうでもよくなってしまったのだ。
という、具体的なところはさすがに割愛。
「2年付き合って、そろそろ結婚かなーって思ってた。プロポーズっていつされるんだろう?私の誕生日?クリスマス?バレンタイン?いつまで待ってもされなくて、少しせっついてみようかと考え始めた時、『半月くらい会えない』って切り出された」