意外なことに、今日トモ君は軽トラではなかった。
「今日は母親の仕事が休みだったから借りた。こっちの方が燃費いいし、スピードも出しやすいから」
「普通の車は持たないの?」
「軽トラは仕事で必要だし、車を二台持つのは維持費がかかるからね」
「はあ~、貧乏って切ないね」
「はは。そうだね」
どこに乗るか迷ったけど、トモ君があっさりと助手席のドアを開けたからそこは素直に従った。
変に意識するとかアホらしい。
白い軽自動車は乗り心地がいいとは言えなかった。
だけど、スピードが出ている割に体は揺れない。
気遣われていることがわかる運転だった。
トモ君は今日も楽しそうに運転している。
こんな不機嫌な女を乗せて、何がそんなに楽しいのか。
「何でそんなに楽しそうなの?」
「芽実ちゃんが隣にいるからね」
出た、とろけそうな笑顔。
どうやら私を好きだっていうのは本心らしい。
最近気付いたけど、この人は地顔が笑って見えるのだ。
人当たりもいいから常に笑顔という印象だけど、本当の感情は目に現れる。
「小さい頃のことはともかく、再会して間もない相手によくそんなこと言えるね」
「芽実ちゃんは特別だよ」
「だからなんで私なのよ!私、あんたの本なんて読んだことないよ?そしてこれからも読むつもりないよ?」
「今本の話はしてない」
「だって!普通さ、『キミだけがボクをわかってくれる』っていう相手に惹かれない?『同じものに深く共鳴する』とかさ!私じゃない!相手は絶対私じゃないでしょ!」
「僕だって自分のことよくわかってないのに『あなたのことわかってます』って言われてもねえ。むしろ怖いよ」
「あ、今あんたにいるかいないかという少ないファンを敵に回したよ。生活の糧を失うよ」
「読んでくれるのはありがたいけど、恋愛とは別だから。僕は愛に生きたい」
「作家なんでしょ!?もっと心を掴むセリフはないのか!」
「恋愛小説は書いたことないんだ」
作家ってみんなこうなの?
ああ言えばこう言う。
あーやだやだ。