「うちの近所に住む真柴朋晴さんです」
小雪も瀬尾君もポカンとしている。
中島さんだけが店員さんにイスを運んでもらって、ヤツの席を作っていた。
(誰!?なんでこんなことになったの?)
と小雪が視線を送ってくる。
(私だってわからないよ!)
小さく首を振って答えた。
「もしかして、中島さんがまた拾ってきた?この人飲み会でもよく知らない人引っ張ってきちゃうんだ。真柴さん、ご迷惑だったら無理しないでください」
瀬尾君が申し訳なさそうにフォローを入れてくれる。
「あ、いえ、僕は大丈夫です。こちらこそ急にお邪魔してしまって申し訳ありません」
本当にまったくその通りよ。
トモ君が頼んだランチのミックスフライが運ばれてきて、改めて軽く自己紹介が行われた。
瀬尾夫妻に瀬尾君の先輩、小雪の友人の私、私の家の近所に住む人。
ほら、異物混入!やっぱり一人おかしいから!
「真柴さんはどんなお仕事をされてるんですか?」
中島さんっていい人だけど空気は読まないのかな?
「兼業農家です。稲作の」
「作家です」とは言わないんだな。
何かコンプレックスを感じるやりとりだ。
「普段は会社勤めですか?」
尚も突っ込む中島さんに「いやー、そのー」と言い淀んでいる。
なんだなんだ!はっきり言えばいいじゃない!
「この人、作家です。米田朋策ってペンネームで何冊か本出してる」
どんなコンプレックスがあるか知らないけど、こんな事態を引き起こした罰だ!
恥かけばいい。
ところが━━━━━
「米田朋策!?『柚の踊り子』の!?『春菊の墓』の!?」
中島さんがものすごい勢いで食いついてきた。
あ、本好きなんだっけ。
「あ、はい。そうです。よくご存じですね」
トモ君の方が引き気味だ。
中島さんのテンションに他の人はすっかり取り残されている。
「ちょっと、ちょっと待ってください!米田さん、帰らないでくださいね!」
そう言い捨てて、中島さんは何処へか消えた。