美弥子さんの家はこの町の目抜き通りの真裏にある。
スーパーやドラッグストア、衣料品店、歯医者なんかは徒歩10分以内にあるからとても便利なところだ。
対してコンビニは車で10分かかる。
どうしても必要ではないけれど、そこに矛盾は感じてしまう。
「お邪魔しまーす」
十数年前に建替えた家はこぢんまりとしたキューブ型の二階建て。
趣はないけど、屋根の雪下ろしにこれ以上楽な形はない。
とりあえず、仏壇にご挨拶。
おじいちゃん、芽実です。
いろいろと、まあとにかくいろいろと事情があってしばらくこの家にご厄介になります。
詳しいことは美弥子さんに聞いてね。
もっと詳しいことは、おじいちゃんには言いたくないな。
女の子の事情なの。
察してね。
東京のお土産って言っても何がいいのかわからなかったから、私が好きなゼリーを買ってきたよ。
おじいちゃんがゼリー食べてる姿って見たことないな。
でもどうせ食べるの私だし。
ゼリーって意外と日持ちするし。
あれ?冷蔵庫に入れなくていいのかな?
でもお中元コーナーなんかでは常温で並んでたりするよね。
ゼリー自体はともかく、中にぎゅうぎゅうに詰まってるフルーツ類は大丈夫なんだろうか?
でも砂糖も保存には有効だったはず━━━━━
「必死に祈ったっておじいちゃんに人を呪い殺す力はないよ」
美弥子さんの声で我に返った。
「さすがにコロシは依頼しないよ!」
おじいちゃん、人は殺さなくていいからゼリーが腐らないように見張ってて。
とりあえず2、3日なら常温で大丈夫と、勝手に判決を下した。