お昼頃になって気温は上がってきたけれど、それでも十分に寒い。
窓から見える木々も葉をすっかり落としてもう雪を待つばかりだ。

ベンチに座っている人はほとんどいない。
買い物途中の女性が荷物の整理をしているのと、寒そうに座っている男性が一人だけ。

・・・男性が、一人。


「お待たせしました」

店員さんが料理を運んできた。
それぞれの前にトレイが並ぶ。
そちらに気を取られて、再び窓の外に目を向けると、さっきの男性は冬の吐息のように消えていた。



消えていた。



消えていた!



消えてくれ!!


「なんでいるの?」

うっかり漏れたつぶやきを小雪が拾って小声で聞いてきた。

(私たち邪魔ならこの後帰るよ?)

(ごめん!そういう意味じゃない。全然違う。こっちの話だから)

(そう?でも何かあったらいつでも言って)

何かあったよ、小雪。
どうしてくれよう。


ここからはっきり見える人影は、残念ながら窓の汚れでも生霊でもないらしい。
ああ、気になって明太子パスタも満足に巻けない。

「ちょっと、失礼します」

もう我慢できずにトイレを装って席を立つ。

外に出てあいつのところへ駆け寄ろうとして思いとどまった。
中から丸見えなんだった。

男性を紹介してもらってるのに、外で別の男と会っているなんて見つかったら大変だ。
例えあいつが私から見たら男性として全く興味をそそらないとしても、生物学上男で、独身で、辛うじて若いと言えなくない年齢なのだから。

仕方がないので中からは死角になる位置を選んで必死に手招きする。
けれどうつむいてじっと地面だか手だかを見ているヤツは気づかない。

「ちょっと!ねえ!」

軽く呼びかけてもピクリとも反応しない。

凍え死んでるの?
だったら救急隊の瀬尾君を呼んだ方がいいかしら?
あ、動いた。生きてる。

手を大きく振ってみたり、飛び跳ねてみたり、どんなにアピールしても気づいてもらえない。
一体なんなんだろう、この時間。

「ちょっと!トモ君!」

さすがに名前を呼ばれればわかったようで、ビクッとして顔をあげた。
驚いて逃げ出すかと思いきや、妙に幸せそうな笑顔でこっちを見ている。

(いいからこっちに来い!)

殺気を込めて手招きすると、復活したばかりのゾンビのようにフラフラとやってきた。