「北村さんは何のお仕事をされているんですか?」

料理を待つ間、さっそく中島さんが話しかけてくれる。

「ずっと東京で事務の仕事をしていたんですけど、事情があって辞めて、とりあえず今は本屋さんでアルバイトをしています」

うーん、かいつまんで話すと情けない現状だ。
ごまかしようのない28歳フリーター。

ところが中島さんの表情はパッと輝いた。

「本が好きなんですか?」

なんか、すごく期待されてるみたいだけど、どうしよう。
絶対がっかりさせる答えしか持ち合わせていない。

「・・・いえ、たまたま通勤に便利だっただけで、本はほとんど読みません。すみません」

ものすごく悪いことをした気分。
でもでも、本を読まない書店員なんてたくさんいるよ!
それでも商品知識はちゃんとあるし、ちゃんと対応できてるよ!
と、言っても無駄だろう。

「中島さんって読書が趣味なんですね。どんな本が好きなんですか?」

気を使って小雪が入ってくれた。
ごめん、何から何まで。

「興味があれば何でも。だから割と広く読んでる方だと思います」

「私『抑止と均衡の崩壊』が読みたいなって思うんですけど、中島さんは読みました?」

小雪、やっぱり興味あったのか。

「はい。なかなか興味深いテーマでしたね。設定は面白いと思いますけど、生かしきれていなかった感じはします」

そしてあなたは読んだのね!

小雪は真剣な表情でうなずいている。
一応私も加わらなければ。

「えっと、今後の参考にします」

お客様に「設定は面白いけど中身は微妙らしいですよ」とは言えないけどね。

「瀬尾君は本読まないの?」

一人傍観なんてさせない。お前も参加しろよ。

「俺は雑誌と・・・漫画くらい」

なんかモゴモゴして頼りない返答だ。
小雪、あんたの旦那は頼りにならないねー。