あっさり採用されたのは、隣の市内にある大きめの書店だ。
県内にいくつか支店を出している、地域ではお馴染みの本屋さん。

自転車で駅まで行って、そこから2駅。
店は駅のすぐ目の前だから車を使わず通勤できる、少ない候補だった。

2駅と言っても田舎と都会では全然距離が違う。
中学生の頃、ファッション誌のダイエット特集で「1駅歩く」という方法を読んで驚愕したものだ。
そりゃあ1駅分も毎日歩いたら痩せもするだろう、と。

実際体力を使うのは自転車での20分で、そのくらいならむしろ心地いいくらいの運動だった。


「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

深々と頭を下げると、すでに仕事を始めている工藤さんが入荷情報を確認しながら指示を飛ばし始めた。

工藤さんはこの店舗ができた時から働いているベテランアルバイトさん。
主婦で高校生の娘さんと中学生の息子さんがいる。
私はしばらく工藤さんについてもらって、仕事を教わっているのだ。

「北村さん、おはよう。じゃあさっそく山本さんと川内さんと一緒に掃除をお願いします。終わったら一緒にレジ開けして、カウンターに入りましょう」

「はい」


本屋の朝はその日入荷した本の品出しから始まるのだけど、まだ何の本がどこにあるのかも覚えていない私は、掃除要員に回っている。

トイレ掃除をし、入り口を掃いて、ガラスのドアを拭けば開店まであと少し。
工藤さんに見守られながらレジを開けると、もう開店時刻をわずかに過ぎていた。

が、開店と同時にお客様がなだれ込むようなことはない。

仕事はいくらでもあるから手は動かしつつも、バタバタした開店前よりむしろどこかのんびりした空気がただよう。