美弥子さんが住んでいる、そして私がやってきたこの町は人口1万6千人ほどだ。
市町村合併が進んだ時ですら農産物の生産と全国的に名前の通った祭りを武器にしぶとく生き残った。
隣には2つ市があり、そのどちらにも車で15分程度という立地だから、生活していく分には困らないのだろう。
生活必需品は買えるし、車の運転はしやすいし(普通の人ならば。私はその水準には達していないと痛感)。
自然はたっぷり、人はきさく。
歩いているだけで見知らぬ人がモロヘイヤとかくれるからね。
病院は・・・ちょっと困るけど、歯医者と美容院は豊富。
ただ生活するだけならいい。
慣れてしまえばむしろ住みやすいくらい。
だけど生活の糧を得るには、ものすごーく大変な場所だった。
「やっぱり正規採用は無理かなー」
天竺までお経を取りに行ったような疲労感でかき集めてきた採用情報は、どれも非正規雇用。
おまけに自転車で通勤できる範囲には採用がない。
アルバイトで車を買って維持するなんて無理だから、正規雇用がどうしても条件。
市まで出ればすこしはマシかもしれないけど。
つくづく厄介な男に引っかかってしまったと思う。
あの恐怖で心をすり減らしていた日々を思えば、仕事を辞めて逃げてきたことに後悔はない。
私は心穏やかに、太陽の下を堂々と手をつないで歩けるような恋愛がしたい。
だけど現実問題として、生きていかなければ恋愛もできない。
ほとぼりが冷めたあたりで東京に戻る?
だけど今回の引っ越しでだいぶお金を使ってしまった。
処分した家電を買い直し、敷金礼金を払って新たにアパートを借りるには貯金が足りない。
これからどこに住むにしても、もう少しお金を貯めないと・・・。
「とりあえず、何でもいいから働こう」