「あー!動いたー!!」
嬉しさで運転席を飛び出し、お兄ちゃんに走り寄る。
「ありがとうございました!もう助けを呼びに走ろうと思っていたところだったので」
「前のタイヤが滑ってただけだから、なにか噛ませれば大丈夫だよ」
お兄ちゃんは思いの外キラッキラの笑顔を向けてきた。
ふわふわの癖毛が風に揺れている。
どこもかしこもこれといった特徴はないのに、一重の細い目だけはどこか印象的な人だ。
こんなピンチに颯爽と現れて助けられたら恋に落ちそうなものだけど、ナイ!
申し訳ないけどこの人はナイ!
いい人なのは認めるし、外見だって良くはないけど別に普通。
だけど、もし運命の出会いがあったら「きっとこの人だ・・・」とわかるように、「この人ではない」と本能が告げる。
でもありがとう!あなた自身は忘れても、ご恩だけは忘れない。
「本当にありがとうございました。助かりました。では、これで」
お兄ちゃんだって仕事の最中だろうし、ここで変に時間を取らせるのもよくないだろう。
そう言い訳してその場を失礼した。