無事収穫が終わり、新米が全国に出回り始めた季節。
芽実ちゃんが今日、お嫁に行く。
私たちの時代とは違って式を挙げるわけでもなく、入籍して一緒に住むだけだから、引っ越しと大差のない門出である。
私の家に彼女が住み始めて一年。
荷物も大して増えていないから、あらかたトモ君が運んでしまった。
新居に荷物を置いたら、最後に芽実ちゃんを迎えにくることになっている。
「これで最後かなー。ま、忘れ物があっても後で取りに来ればいいもんね」
大きめのバッグひとつを抱えて、芽実ちゃんが居間に入ってきた。
最後の挨拶をするため仏壇の前に座る。
長い・・・。
何をそんなに話すことがあるのだろう。
「必死に祈ったっておじいちゃんはお金なんてくれないよ」
「え!?そうなの?美弥子さんの面倒みるって言ってもダメかな?」
本当にお金の相談してたのね。
「バカなこと言ってないで、トモ君が来るまでお茶飲んで待ってましょう」
あらかじめ用意していたポットにお湯を注いだ。
どうせしょっちゅう遊びに来るだろうし、こんな風にお茶を飲むことがなくなるわけではないけれど、やっぱり寂しい。
若い人の生活スタイルにストレスを感じることもあったのに。
「いただきまーす。うおっ、熱っ!」
また熱かったみたい。
芽実ちゃんは猫舌ね。
「美弥子さん、お世話になりました」
目も合わせないまま芽実ちゃんが言う。
改まって言うのが恥ずかしいのだろう。
「あら、殊勝なことね」
「一応、社会人ですから」
では、私も一応社会人だったので。
「結婚おめでとう。トモ君はいい男だよ」
「・・・うん」
〈いい男〉にも種類はたくさんあるけど、トモ君は真っ直ぐな子だ。
別に純真無垢という意味ではなく、歪んだところも曲がったところも抱えている。
でもそれを「歪んでいる」「曲がっている」とちゃんと自覚して認められる子なのだ。
芽実ちゃんも小さい頃はトモ君が大好きだった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とくっついていたのに、どうやら覚えていないらしい。
いつも真柴さんには「優しいいい子ねー。うちの孫のお婿さんにほしいわー」と言っていた。
だけど二人の生きる場所は全然違っていて、まさか本当に結婚するなんて思わなかった。
芽実ちゃんがここにやってきて、かなり強引にお節介を焼いたけど、それもいい思い出と思って許してほしい。