さわやかな風薫る気持ちのいい朝。
私はトモ君と仲良くあぜ草刈りをしている・・・。
大きな庇と変な花柄のカバーがついた帽子をかぶり、汚れても構わないTシャツにパンツ、機能性重視でかわいげもへったくれもないゴム長靴。
そして汗でドロドロになるからノーメイクだ。
間違っても好きな人には見られたくない格好だった。
まあ、その好きな人も同じような格好をしているのだけど。
年に数回やらなければいけない、ということで本格的に暑くなる前に一度やっておきたいのだとか。
(いやもう十分暑いけど)
米の品質を守るためにも大切な作業。
こうして私たちの口においしいご飯が入っていく。
ありがたい。
食べるだけの人間なら素直に思えた。
「あーーーー!!疲れたーーーー!!」
ブイーン、ブイーンという機械音に負けない大きさで叫ぶ。
「芽実ちゃん!休んでていいよ!」
「うるさい!私が好きでやってることに口出ししないで!」
トモ君が草刈り機を止めた。
「じゃあ、一緒に休憩しない?」
「する」
青い空、白い雲、流れる風、バランのように青々とした美しい水田。
(蒸れて気持ち悪いこと以外)それは素晴らしい光景なんだけど。
「去年はスタイリッシュな都会でオフィスラブしてたのになあ」
失ったものはポラリスより遠い。
惜しいとは思わないけどね。
「オフィスラブって?」
「職場恋愛」
「ふーん。職場・・・」
あ、〈社内恋愛〉の間違いだった。
訂正しようと顔を向けると、土と草と、彼の匂いがした。
━━━━━ちゅっ。
唇に残された乾いた感触。
至近距離にはちょっといたずらっぽいキラッキラの笑顔。
「はい、オフィスラブ」
心臓と新心臓がドキドキしすぎて結局訂正できなかった。
私の頬の熱を風が運び、そのまま水田の上をなでていく。
どこまでも、どこまでも。
end